第7話 思い出話に花が咲く

 早く学校に行きたい。そう思ったのはいつぶりだろうか。話したいことが山ほどある。もちろん相手はスマホなんて持っていない。だが、その関係に特別感があって、足が自然とバタバタ動く。

「ひ、久しぶり!咲希」

「千夏、昨日ぶりだよ?」

 一夜が長く感じた。授業中、時計が動いていないように見えた。

「ちょっとさ、昔の話しても良い?」

「千夏の昔の話ね、どんなだろう?」

 幼い頃、迷子になった時の話。お母さんじゃない人に寄っていってしまった話。初めて夜更かしをして次の日の体力検査で最低スコアを叩き出してしまった話。咲希は全て楽しそうに聞いてくれた。親にも友達にも話したことのない、ずっと心に残っていた思い出ばかりで、初めて人に話すことができて、私は楽しかった。

「じゃあ、また!」

「うん。じゃあね」

 咲希は、大きく手を振ってくれた。帰ってきて、ようやく自分しか話していなかったことに気がつく。咲希は呆れてしまっただろうか。私は部屋で、食べ残した弁当を食べた。

 昼休み。私は弁当も食べず、屋上へと行った。

「昨日ずっと私の話しちゃったからさ、咲希の話を聞かせて欲しいんだけど良い?」

 咲希は、少し驚いたような顔をした。

「良いけど…千夏みたく面白く話せないよ。それに大半のことは忘れちゃったし。私はもっと、千夏の話聞きたいけどな」

 咲希はこういう時とても悲しそうに笑った顔をする。

「でも、もっと咲希のこと知りたいからさ…」

「分かった。じゃあこの学校にいた時の話をするね」

 私はこの学校に来てまだ1年と数ヶ月。もちろんこの学校の昔の姿なんて知らない。私は壁にもたれかかった背中を前にやった。

「千夏は学校好き?」

「えっと…ま、まあまあ?」

 突然の質問に私は戸惑ってしまった。

「嘘ついてるでしょ、千夏」

「う…うん。ちょっと嫌い」

「私はね…大っ嫌いだった!」

 突然の大声にびっくりしてしまった。大嫌いというその口は、清々しく笑っていた。

「そもそもさあ、勉強勉強ってのが嫌いでさ、よく授業サボってたの。この屋上でね。先生が来てもね、あの上のところの影に隠れてたら案外バレなくて。先生も完全に私を放ってた」

 今なら、絶対にバレてる。とある陽キャ集団が隣町のゲーセンでサボって、バレてた。クラスで話していたのだけれど、汗だくで、息切れした前川先生というおじさんの先生が鬼の形相で向かってきたらしい。前川先生は3時間も休まずに探し続けたのだそう。学校内も隅々まで見ていた。掃除ロッカーまで。きっと今なら前川先生がすぐに見つけ出している。

「その時、とある先生が教育実習に来たの。名前はもう…忘れちゃった。その人だけだった。私を見つけたのは。すぐに返そうとはせず、話をしてくれた。純粋だった私は、惚れちゃった。でも、学校というシステム上、あまり話せなかった。他の子からも大人気で、独りだった私は話しかけられなかった」

 もしかしたら、それは若い頃の前川先生なのかもしれない。咲希は、はっきり言って可愛い。前川先生、幸せものだな。正直、前川先生は生徒に嫌われている。鬼のような量の宿題が名物の、古文の先生だ。

「それで私は彼を屋上に呼び出して、告白した」

 私はびっくりしすぎて転びそうになった。

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