生。
卯月咲樂
①現実を生きる。
馬鹿みたいな話だが、世の中には、綺麗な夕焼け空、ふとした時に聞こえてきた小鳥の鳴き声、元気にはしゃぐ子供たち、そんなものに心を動かされる人間が、まだいるらしい。
もう自分はだめだな。自分は美しさの欠片もない、真っ黒な人間だと確信していたにも拘らず、何故か見つけて締まった己の純粋さにかえって失望してしまう。諦めの悪い自分の生き方に嫌悪感を抱くときだってある。
まだ綺麗に生きようとしていたあの頃の自分がおかしく思えてくる。もういっそ、はじめから透明になることをあきらめて、醜く生きたほうがマシなんじゃないかと考える。
汚れてしまったにも関わらず、毎日生きるのに必死になっている一人の人間がいる。その事実を受け止めたくない自分がいる。
こんな自分に気付き、これが平凡であるならば。いつも明るく笑っているあの人、到底無理がありそうな仕事をなんてことない顔で済ませるその人、自分を愛してくれるこの人、皆もうとっくに堕ちてる。あんな美しい笑顔だって偽りだ。そう見えてしまう。
美しい夢を持って、美しく努力して、それが報われて、世間から讃えられ、まるで喜びを噛み締めるかのように生きる人をみると、吐き気がする。
そんな自分が大嫌いだ。自分を愛する意味を見失った、一人の人間。
ご立派な人は讃えましょう。
はっきりした目標や夢を持ちましょう。
報われるまで努力しましょう。
失敗は成功のもとです。
諦めず、挫けず進みましょう。
あなたを応援している人は必ずいます。
周りの人に感謝しましょう。
人の意見に縛られず、自ら前進しましょう。
上の人には敬意を持ちましょう。
たまには休んでも良いんだ。
自分を信じて。
全部、全部、間違っている。不可能な話だ。この汚れた世の中が生み出した綺麗な理屈。綺麗?いいや違うな。とんでもなく醜く、虚しい、痛い、不透明な、綺麗「事」だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます