アリエルとアリル

仲仁へび(旧:離久)

プロローグ



 宇宙空間のような中に、一人の少女が立っている。


 暗い空間はどこまでも広がり、遠くには数多の星が光り輝いていた。


 そんな空間に立つ少女は、六歳くらいの年齢だ。


 青い髪に水色の瞳を持った、美しい少女である。


 その少女の名前はアリル。


 見る者を虜にするような整った顔つきをしていた。


 あどけなさを残した顔付きのアリルは、他社に愛らしい印象を与える、天使のような見た目をしている。


 その美貌は、将来絶世の美人になるだろうと、彼女を見た全ての人に思われるくらいだ。


 そんなアリルは、宇宙空間のような場所で、透明な板の上に立っていた。


 透明な板はところどころひび割れている。


 今にも砕けそうな板だった。


 そんなヒビの入った板の内部にはたくさんの屍が入っている。


 屍は全て白骨化しており、簡素な服を着たものがあれば、鎧を着たものもあるなど、様々だ。


 しかし、それらの屍に共通している点があった。


 それは楽に死ななかっただろうと推測できる点だ。


 なぜなら、屍のほとんどには矢が刺さっていたり、剣で貫かれていたり、焼け焦げていたからだ。


 中には腕がなかったり、足がなかったりするものもあった。


 まともな精神をしたものならば、平常心で見つめてはいられない光景だが、視線を下に向けたアリルは表情を動かさなかった。


 それはかつて人だったものに向ける視線ではなく、道具に向ける視線に近いものだった。


 足元の屍から視線を上げたアリルは、対面に立つ人物を見て、睨みつける。


 アリルに睨みつけられているのは、彼女と似た顔をした少女だ。


 年齢は七歳くらいで、アリルより少し年上に見える。


 その少女には、姿がない。


 真っ暗な靄に包まれていて、体のシルエットはおおよそしか分からない、体つきからみて、少年ではなく少女だと言う事は判別できる。


 靄の身長からも、アリルより年上だという事が推測できた。


 だが、その靄の年齢が六歳だと分かるのはアリルだけだった。


 この場に第三者は存在しないが、アリルにだけは靄の正体が分かった。


 アリルの視線の先にあるその靄は、口があるだろう場所を動かして、何かを喋った。


「ー」


 それは、言葉にならなかったただの音で、多くの人が耳障りだと感じるキンキンとしたものだった。


 事実、その音を聞いたアリルも不快だと感じ、美しい顔を顰め、耳を塞ぐ。


 ややあって、表情を戻し、耳から手を離したアリルは、靄の足元を見つめる。


 靄の足元にも、透明な板があった。


 しかしどこもヒビ割れておらず、内部には美しい宝物がいくつもあった。


 キラキラと輝く宝石や、ピカピカの黄金、透き通った水晶などがあった。


 その宝物を見たアリルは、舌打ちをした後、警戒心を込めた瞳で靄を睨みつける。


 アリルは鈴が転がるような、可憐な声を発した。


「あんなにも叩きのめして惨めにしてあげたのに、どうしてまだ私に立ち向かおうとするの? どうしてそんな平然とした姿を見せるの?」

「ー」


 その質問に靄は何かしらの言葉を話すが、それは全て耳障りな音になってしまう。


 音を聞いたアリルは再び顔を顰めるが、靄が言いたい事はだいたい理解していた。


 アリルは平然とした顔で会話を進める。


「他者があってこその自分でしょう? 自分は自分だから? それだけで生きていけるなんてありえない? 理解できないわ」


 そう言ったアリルは怪訝そうな顔をしながら、靄に近づいていく。


 靄もアリルに向かって、同じ分だけ近づいた。


 互いにあと一歩進めばぶつかるほどの距離へ近づいてから、その場に停止する。


 アリルと靄は同時に、自分たちの頭上を見上げる。


 星々が輝く宇宙空間。


 その中には、二つの光があった。


 真っ白に輝く光と、黒く渦巻く靄。


 前者は靄の上にあり、後者はアリルの上にある。


 それらが、ひときわ強く輝いて、宇宙空間を己の色で塗りつぶしていった。


 塗りつぶされる景色の中、アリルが呟いた。


「まだ決着をつける時ではないようね」






 どこかの暗い森の中。


 迷子になった少女が、一人の少年と出会う。


 当たりは薄暗く、お互いの顔も姿も十分に分からない。


 ただ洞窟の中に響く声で、互いは相手が異性である事だけが分かった。


 少女と少年は出会い、話をする。


 少女は、両親や妹と旅行している間に迷子になったと話す。


 少年は、自分の体質を治すものを探しに来たら両親とはぐれて迷子になったと話す。


 洞窟の中はとても暗く、相変わらず互いの姿はなにも見えない。


 しかし、少女と少年は互いに打ち解け、仲良くなる。


 それによって、二人は少しだけ洞窟の中が明るくなったように感じていた。


 それから一時間ほど、二人は話をして過ごした。


 すると、さらにその場に迷子がやってきた。


 二人目の少年だ。


 二人目の少年の姿も、暗闇の中ではよく分からない。


 その少年は、毎日続く勉強が嫌で冒険しにきたら、迷子になったと言う。


 三人も同じ場所で同じ時間に迷子になった事に、その場に集った子供たちは奇妙な気持ちになる。


 そうこうしている間、このまま洞窟にいても意味がないと判断した三人はその場を移動していく。


 洞窟の中を進んでいくと、少女が前日家族と共に見かけた大きな石の塊を再発見する。


 先に洞窟で迷子になった少年と後で洞窟に来て迷子になった少年は、少女が「石の塊」と言った物に対して驚く。


 少女が不思議がったため少年二人は詳しい説明をしたが、少女は理解できなかった。


 説明を諦めた少年二人は、「なんだかとてもすごい物」とだけ説明して、出口を探すために、少女と共にその場を離れていく。


 その場で迷子になっていた三人の子供の内、少女だけが知らない。


 その「石の塊」が自分達の未来を大きく左右する事になるとは。



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