第3話 矛盾した勇気
なぜ私の願いを簡単に引き受けてくれたのだろう。こんなにも満ち溢れた汗と欲に溺れるなんて夢みたいだ。
《12時間前》
「……構いません」
「え?本当に?」
「はい」
私は内心怯えていた。意を決してダメ元で金井真琴に問いかけたつもりがこうもあっさり聞き入れるとは、意外だった。金井は緊張しながらも頷く。
「いや、これも冗談で言ったと信じないわけ?」
私の柔らかな表情は消え流石に少し焦る。この人は傍目では素直に見えて案外勇気があるのかもしれない。直前の事故で困惑していた者とはとても思えない度胸がある。汗でテカテカした顔は引き攣ったままだけど。もしかして冗談で言った"ディープキス"がこの人の奥にあるスイッチを押してしまったか?金井が答える。
「わ、わかりません。ただ何となくこの問いには答えないとマズイ気がしたので」
「……」
金井の薄ら滲む緊張と言葉の意図から察するに、私を恐れているらしい。
「はあー」
拍子抜けしてため息が漏れてしまった。
(なんだ。服従させてしまっているだけなのか)
「金井ちゃん」
ようやく金井の名前を呼んだのか彼女はビクッと姿勢を正す。
「本当にいいの?もし私が極悪人だったらどうするわけ?」
私の怯えは拭い去り、徐々に頭角を表していた金井真琴への求愛が遂に脳へ駆け上がった。
「………え、いや」
(迷っている、かな)
再び私は笑顔になる
「じゃあ、午後6時。この公園に集合ね」
「え!?は、はい」
押し負けたのか、容易く決断を自分に引き寄せてしまった。なんてことだ。コミュニケーションでは私の方がエベレスト級に見立てらているらしい。金井ちゃんの勇気は何処とやら。
「別に来なくてもいい。今日初めて会った金井ちゃんには仕事やプライベートの予定がきっとあるはずでしょ?」
「いえ、今日は休日でして。これから何もないし」
「ふーん」
「ええ、まあ」
(確かに、人付き合い苦手そうだしな)
「よし!じゃあ改めて午後6時ここに集合ね。セックスする詳細は集合した時に話す」
「…はあ」
(まだ反応が薄いな。これでは100%ダメかな。ならば)
「因みに、会ったばかりの可愛い可愛い金井ちゃんとしてくれるんだから、報酬は絶対与える」
「ほ、報酬?」
「うん。具体的には午後6時ここで」
「……わ、わかりました」
(来た!)
確信した。自分の口車に金井ちゃんを乗せたことに。胸が熱くなる。心臓の鼓動音が強く1拍鳴らす。同時に股の間が濡れ出した。自分の身体がここまで性欲を求めていたことに驚愕する。一切口をつけてない水滴だらけの水のペットボトルを右手に握ったままゆっくりベンチから立ち上がる。
「それじゃ、また」
ゆっくり金井ちゃんの真横をすれ違って振り返らずに帰路へ渡る。金井ちゃんの表情すらよく見えずに立ち去る。顔は笑い過ぎてなかったか?不審に思われただろうか?そんな不安は1歩ずつ消化されていった。
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