観測器
ヤマ
観測器
「全ての現象は、科学で説明できる」
そう断言する青年を、教授は静かに見つめた。
「では――例えば、眠ったときに見る夢もかい?」
「勿論です。夢は、脳の電気信号の乱れに過ぎません」
教授は、「ふむ」と頷き、一つの装置を取り出した。
古びた蓄音機のような見た目だが、上部に付いたレンズが、じっと青年を見返してくる。
「これは、『観測器』だ」
「……何を観測するんですか?」
「『科学』そのものだよ」
青年は笑った。
「学問を観測? 何かの比喩ですか?」
教授は、無言で装置のスイッチを入れた。
次の瞬間、青年の身体が宙に浮いた。
「これは……! 何が起きて……!」
天井が歪み、空間が膨張し、あらゆる輪郭が曖昧になる。
「『科学』で説明してごらん」
手足で虚空をばたばたと掻きながら、青年は顔を引き攣らせた。
教授は微笑む。
「ほら、『現象』が起きているぞ?」
教授が装置を止めると、すべてが元通りになった。
「君は誤解している」
「……何を、ですか」
呆然としている青年に、教授は言った。
「現象を科学で説明できるのは、当然だ。現象を説明するために科学があるのだから」
青年は、言葉を失った。
「順番が逆だよ。科学は、現象の後追いに過ぎない。時には既存の理論を修正しながら、少しずつ発展してきたんだ」
教授は、優しく微笑む。
「君のそれは、『信仰』と呼ぶんだ」
観測器 ヤマ @ymhr0926
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