ダンジョンが出現した日本で戦闘センスがイマイチな中学生だった場合~最弱ウサちゃんから魔王ウサギへ~

袴垂猫千代

第1話 誰でも思い付きそうなのに誰もやらないことはやってはいけないこと、なのだろうか

 僕は風間かざま琥悟朗こごろう

 名前は忍者みたいだけど、なんの特技もない14歳の中学生だ。


  七年前にダンジョンが世界中に出現した。

 突然直径100メートルが平地になり、その中心に一辺が20メートルの灰色の立方体があった。


 世界中全ての立方体の横の面は、正確に東西南北を向いており、真南の平面は直径1メートル高さ2メートルの石柱が入って直ぐの両側に立っていて、これに触ると何処にいても石柱の位置が判った。

 中は不整地のような道が続いており、道の横は草原や疎林、廃墟など様々な別の空間が広がっていた。


 入り口から1キロの処にも石柱が道の両側に立っていて、その先には大きな虫や猫くらいのネズミなど、地球の物ではない生物がいた。

 石柱より前の安全な場所はエントランスと呼ばれるようになる。

 ダンジョンの中は平原や森林や、砂漠、遺跡っぽいのもあるが、何処でも空は明るい曇り空で、夜昼の変化はない。


 世界中で軍隊を入れて中の生物と戦ったが、日本でも自衛隊が即応力のある防衛軍になり、ダンジョン専門の特殊領域軍が新設された。

 銃火器は効かない訳じゃないが威力が低かった。

 ラノベではよくあることなので、剣やバールで戦って、一体形成の金属性の武器が良いのが判った。

 その頃になると戦っていた人の中に空間収納とスキルが得られる人が出て来た。


 ダンジョンで得られるスキルの中に、テレパシーのような共感(英語圏だとシンパシー)があり、それを得た者が全員、人類全体の戦闘力の底上げをしておいた方がいいのではないか、と感じたので世界中の為政者がスタンピード的な事態に備え、民間人のダンジョン入場を検討するようになった。


 ダンジョン出現の1年後、世界中で小型のモンスターがダンジョンの周辺に現れ始めた。

 最初は直ぐに死んでしまったのだが、次第に生存時間が長くなって行った。

 ダンジョンは霊気の噴出を押さえる蓋のようなものだと推測されて、その周りから出てきてしまうので、現れるモンスターははみ出しと呼ばれた。

 はみ出しのモンスターは、穴を通って出て来るように、強さではなく大きさで出て来る。

 偶に小型だがダンジョンの奥にいるのが出て来る事があったが、強力なモンスターほど濃い霊気を必要としているので、すぐ死んでしまって、浅い処から出てきてしまうモンスターの方が危険だった。


 ダンジョン出現の2年後から、国全体の戦力強化で民間人の入場が許可され、3年前からは10歳以上は安全なエントランスに入るのが推奨されるようになった。

 スキルと収納が得られるのは最初は20歳以上だったのが、だんだん下がって来て、去年は15歳、今年に入って15歳前でもスキルを取得出来る者が現れた。


 土日は特に用がないと、お母さんの風間真彩かざままやと2歳年下の妹の愛歌あいかの三人で八王子城跡のダンジョンに行く。

 入り口は万が一モンスターが出て来た時の為に堅牢な建物で塞がれ、そこで入場手続きをする。


 エントランスに入るだけなら、国民ナンバーカードを示すだけでいい。

 ラノベにありがちな許可証はないが、何処の国でも、外国人は無許可では自国のダンジョンに入らせない。


 エントランスにも砦のような監視所兼買取り所があり、病院や高級レストランなどがその後ろにある。

 左右とも横に1キロ行くと、モンスターは出て来ないが採集の出来る草原や疎林、荒れ地がある。


 八王子城跡は入り口から向かって右が瓦礫の多い砂漠、左が疎林。

 採集の上位の探求スキルを持っているお母さんは、鉱物を掘り出すより植物を見つける方が得意なので、いつも疎林に入っている。


 お父さんは中堅の商社の代替エネルギー部門に勤めていたけど、モンスターから取れるマナコアがエネルギー源になると判ってから、ほとんど家に帰って来ないで、4年前に過労死してしまった。

 階段を登り切ったところで真後ろに倒れるのが防犯カメラに映っていて、脳血管障害だろうと言われた。


 自分が男だというのを意識するようになって、妹のアイカのことは守ってやらなきゃと思っていたのだが、いつのまにか僕より強くなってしまった。

戦闘センスが違うらしく、スポーツチャンバラとかすると、全く敵わない。

 防具を付けてのフルコンタクトの殴り合いをしても、僕の攻撃は当らない。

 よく動いているので締まっていて、黙っていればまあ、美少女の内に入るだろうと思っている。


 地球が徐々に温暖化して、関東辺りは亜熱帯になってしまったのだけど、ダンジョンの中は25度から35度までで一定している。

 八王子のエントランスは一年中30度。


 まだモンスターが出てくる場所ではないので、服装はハイキングと同じ程度の長袖と長ズボン、トレッキングシューズと、万が一転んだ時の為に膝当てと肘当てをしているくらい。

 学校推薦の簡易戦闘服があるのだけど、休日に着ていると、なんとなく恥ずかしいので着ない。


 妹は戦士系になりたいので、石を拾って投げたり、疎林の木を叩いたり蹴ったりするが、僕はお母さんに言われた野イチゴやカモミールを採る。

 収穫のスキルがないとどれを採っていいのか判らないが、言われたものを採っていれば採集系のスキルが生えて来る。


 意識的に取ろうとしないと、下位スキルと言われている収穫になってしまうのだけど。

 最初に採集が取れると、更に上位の探求、発掘、採掘に伸ばせる。

 ダンジョン採掘者と呼ばれているけど、スキルの採掘は採集系の最上位スキル。


 それなりの物が取れる奥で採集するためには、戦闘をしない訳にはいかないので、ダンジョン採掘者になるための中学の部活、ダンジョンマイナー部で戦闘訓練はしている。

 それで戦闘系に才能がないのが判ったので、初期スキルに収穫の上の採集が生えるようにがんばった。


 そして、十五歳になる前、6月末の土曜日に採集が生えた。男ではちょっと早い。

 採るように言われたカモミールを手にした途端、急に視界が広がった感じがして、見えている植物の内、今まで言われないと何かわからなかった物だけでなく、採ったことのない物の有用性が判る。

 意識すると、初期技能が収穫、 融合適性が水属性と地属性なのが頭の中に浮かぶ。


 体の中に別の空間があるように感じ、100キロくらい入りそうに思えた。

 中に幅5センチ長さ15センチの角の丸い白い板がある。

 ダンジョンカードと呼ばれていて、出して他人に触らせると収納の中身が見える。

 それ以外のことは判らず、何も書かれてはいない。


 自分が地属性なのも判る。

 人間の属性は地水火風の4属性が基本で、最初のスキル獲得時にそれ以外の属性になった者はいない。


 モンスターには4属性に加えて、光属性、闇属性、雷属性、心属性、霊属性がいる。

 属性があっても魔法的なものはなくて、気の攻撃に属性が乗る、武侠小説みたいな世界になった。


「採集、生えた」


 取り敢えずお母さんに報告。アイカも寄って来る。


「これで1層に行ける」


 スキル取得者1人で未取得者1人をモンスターのいる領域に連れて行ける。

 エントランスの1キロ地点の左右にも監視所があり、申請しないと奥には行けない。

 飛行船のドローンで4キロ入り口までは監視している。

 4キロには未収得者は入れない。無理に入れると気絶してしまう。

 放っておけば死んでしまうので、日本では無理に入れようとしただけで殺人罪になる。


「それについて、相談したい事がある」

「何か?」

「ここでは話せない。帰ってからのこと」


 監視所でダンジョンカードを見せて、スキルを申告し、採掘者登録をした。

 ダンジョンから出る主要な資源がエネルギー源になるマナコア(日本の公式文書だと霊核)なので、世界中でダンジョンで収入を得ている人間を、炭鉱夫的な呼び方をしている。

 だから学校の部活もダンジョンマイナー部。


 お母さんを保証人にして申請して、採掘者カードを貰い、アイカは同行者カードを貰う。

 これで明日からは、それぞれのカードを見せるだけでエントランスの先の1層に入れる。

 ダンジョンマイナー部の顧問の先生と友達各位にメールをして、帰路に就いた。


 採集のスキルが取れたら、やって見たい事があった。

 収穫のスキルがあればモンスターを部位別に分ける解体が出来るが、採集だと、さらに細かくする分解が出来る。

 戦闘系や身体強化のスキルはダンジョンの外では使えないが、3年前くらいから収納の中での作業や出し入れは出来るようになった。


 採集を取れる前提で、ホームセンターで鉄釘1キロと、砂鉄1キロを買っておいた。

 釘を10グラムほど微細紛にして、風呂場で銅の短剣の先から出してみた。

 出すだけで発火して、花火のように落ちる。


「よし、第一関門突破」


 この微細鉄粉を瓶に入れて投げれば、中距離攻撃にはなるはず。

 しかし、あまり混じり気のない鉄を使うにしても費用対効果が低い。

 モンスターには物理攻撃が全く効かない訳ではないが、1キロの鉄粉を投げ付けても、牽制や目隠しにしかならない。

 発火しても、モンスターが相手では粉が飛び散ったのとさほど変わらない。


 次に、砂鉄を鉄と黒錆に分ける。

 釘の一番多い成分を意識し、砂鉄から同じ物を取った。

 銀の粒と黒い粉に分れた。純鉄と酸化鉄に分れたはず。

 黒い粉を100均で買った小さな紙コップに入れ、銀の粒を意識して、鉄と思われるものを取る。


 銀の鉄粉と透明な何かに分れた。

 透明な何かは酸素なはず。

 これは出すと爆発するかもしれないので、家では出さない。


 紙コップに水を10ccだけ入れ、黒錆から分けた透明な何かを意識して、分離する。

 コップの中が、2種類の透明な何かになった。


「爆鳴気、ではないな、これは」


 酸素1水素2の常温の混合物が、液体の体積に収まっている。


「爆鳴水と名付く」


 リア中である。

 このままでは火は付かないはずだけど、膨張するだけでえらい事になるんじゃないかと思う。

 予定していない強敵に出くわした時にスタングレネードを使う事はあるのだけれど、検索を入れて見ても、ダンジョン関連でストレージの中で水を分解して爆鳴気を作る話が出て来ない。


 爆鳴気は音だけで威力がないようなのだが、物理攻撃はオーラバリアでかなり減衰するので、どれでも威力は関係ないはずなのだけど。

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