30光年のまわり道

@kyanchomedx

2072年

父と最後に言い合いになったのは、たしか22歳の夏だった。

ちょうど大学を卒業して、就職するか、地元で家を継ぐか――

自分の将来について悩んでいたが、父はいつものように「安定」や「家族」の話ばかりだった。


リビングのテーブル越し、暑い空気のなか、口論はエスカレートして、気がつけば思い切り叫んでいた。

溜まっていた不満や苛立ちが一気にあふれて、つい「もういい、出ていく」と言い放った。


父は何も言わなかった。

背中を向けて、僕はドアを乱暴に閉める。

あれが家にいた最後の日だった。


働きながら新しい街で人生を作り直した。

けれど、あの日の言葉の後悔はずっと尾を引いた。

途中で仕事が辛くなったときや、何かに傷ついた夜、ふと父のことを思い出しては、どうしてあんなに意地を張ったのかと胸が痛んだ。


家には、二度と戻らなかった。


数年後、妹から父が病気だと聞いたときも、怖くて電話もかけられなかった。


父の葬式では、遺影をまともに見られなかった。

うつむいたまま、手を合わせることしかできなかった。


「生き方は自分で決めたい」と叫んだあの日から何十年も経って、

老いて独りになると、ますますあの口論とその後悔が心のなかで大きくなっていった。

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