幻想のルードゥス———王道(に近い?)冒険譚はお嫌いですか?————

蕪株歌舞

Ⅰ‐Ⅰ 異世界転移(教室ごと)

「これを持ちまして、1学期終業式を閉式いたします。何か伝達のある先生方はいらっしゃいませんか?」

「———生徒指導部長の鬼塚です。私から夏休み期間中の過ごし方について話させてもらおうと思います。まず——」




 あぁ、暇だ。




 遊戯紅葉は先生にバレないよう、小さく欠伸をした。



 相変わらず鬼塚の話は長い。




 マジで熱中症になるぞ?



 私の耳はもう先生の話など右から左にすべて流れていた。


 今年で高校1年生になるのだが、小学校、中学校から言っていることは大して変わらず、“縛られている”という感覚のままだった。



「———近隣の中学、高校で行方不明者が多発しています。ですので、帰りは十分に気を付けて帰宅をするようにしてください。決して一人で帰ることの無いよう、お願いします————」




 もうわかったから早く終わらないだろうか?


 帰ってゲームがしたい。


 確か今日は新しいルールブックが発売される日なのに・・・


 いや、いっそのこと異世界に行きたい。


 冒険したい。


 魔物倒したい。


 竜に乗ってみたい。

 

 そんでもって・・・


 zzz・・・


 ハッ



 あぁ、あかん。


 眠くなってきてしもうた・・・


 このまま眠りについたら白馬の王子様が・・・


「こーら、紅葉。あとちょっとなんだから我慢しなさい」


 チッ


 美咲め。


 あいかわらず真面目なんだから。


 紅葉は軽く悪態をつきそうになったが、ちょうど先生の話が終わり長きにわたる睡魔との戦いに終止符が下ろされるのであった。


 ***


「あぁー、長かった~」

「紅葉、また寝てたでしょ~。先生に怒られても知らないよ~?」


 教室に戻るや否や、美咲が笑いながら私の机に座ってきた。まったく真面目な優等生なくせしてこういうところがあるから男女問わず人気なんだろうなぁ。


「ま、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。バレなきゃ」

「この悪人め。今までバレてないからって・・・そういえば、大学のオープンキャンパス行ってくる宿題っていつ行く?一校くらい一緒行こ?」

「さてはさみしがり屋か~?いや~かわいいなぁ美咲ちゃんは!」

「急に行きたくなくなったんだけど」

「冗談です。すみませんでした」

 まったく。この親友には頭が上がらない。美咲とは小学校からの付き合いで、彼女が迷子になって泣いていたのを助けたときからの付き合いだ。付き合いが長いせいかずっと一緒に居られると思っていたが、さすがに目指す大学は違う・・・というか私が何も将来設計を考えていない。ま、まだ1年生だから大丈夫でしょ。


 どこぞの小鳥遊さまは今から受験勉強していますが。まったくあいつは医大にでも行くのか?頭いいやつのことはようわからん。


「・・・何か失礼なこと考えなかった?」

 振り返ると、そこには噂のガリ勉小鳥遊君が立っていた。この地獄耳め。足音も立てないでここまで近づきやがって・・・これだからコイツ苦手なんだよ。 


「べっつにお呼びじゃないです~。・・・何?なんか文句でもある?」

「何も言ってないけど?」

「あっっっっっそ」

 私は愛想なくそっぽを向くと、ガリ勉小鳥遊もそれ以上は何も言わず、座席に戻って行った。

「・・・もう少し、違う言い方あったんじゃない?」

 美咲が少し悲しそうな顔で私に語りかけてきた。

「何が?」

「昔は仲良かったじゃん。一緒によくゲームとかもしてたし・・・」

「昔の話でしょ?今は違う。・・・あいつにもいろいろあるんでしょ。どうせ」

「そうかもしれないけど・・・紅葉は本当にそれでいいの?」

「・・・・・・」

 私は何も言わずに窓の外の風景を見ようとした。今まであいつのことはあえて考えないようにしてきた。もう何度も衝突を繰り返してしまっている。正直あいつのことは嫌いではなかった。なかったのだが。

「ま、そのうち・・・ね」

 面倒くさいから、考えるのを放棄した。美咲はやれやれと言いたげな顔をしながら、私の髪をいじって遊びだした。私の髪をいじって何がおもろいんだ?クラスの中でも私は髪短いほうだろ?


 諦めて全身を美咲にゆだね、なんとなく窓の外を眺めるとそこには思いもよらない光景が広がっていた。

 


「・・・あれ?なんか外、光ってない?」


 それは違和感ではなかった。廊下も、外の風景も異様な光に変わっていた。


 というよりも、真っ白な空間だった。


「んー?何寝ぼけたこと言ってるの?アニメの見過ぎじゃ・・・」


 美咲も私につられて教室の窓を見ると、異様な光に覆われ始めていた。


「え、ちょ、うそ⁉ど、どうなってるの⁈」

「いや私に聞かれましても⁈」


 他のクラスメイトも慌てており、教室を飛び出そうとしたものもあらわれた。




                ———しかし———






「う、うそだろ⁈ど、ドアが開かない‼」

「閉じ込められたってこと⁈」

「おい、ふざけんなよ‼」

「わ、私達どうなるの⁈」

「電波通じない‼警察とかも呼べない・・・」

「こ、怖いよ~」

「どうやったらも、戻れるの?」

「・・・ゲームをクリアすればいいんだよ」

「マジで家帰らせろよ‼これから夏休みなんだぞ‼」

「ちょっと男子!なんかあったら守ってよね⁉」

「無茶いうな‼自分の身くらい自分で守れよ‼」

「はあ⁈こんな時くらい役に立ちなさいよ‼それともバカ騒ぎすることしか脳がないわけ?」

「んだと‼」

「け、喧嘩しないでよ!」

「はぁ?何いい子ぶってるの?」

「も、もうやだ・・・助けてお母さん・・・・・・・」

「ちょっと!泣かないでよ!まだ帰れないって決まったわけじゃないでしょ⁈」




 誰も外に出ることができない、混沌とした状況に皆恐怖をおぼえ始めてしまった。



「ちょ、ちょっと!みんな落ち着いて!不安になるのはわかるけど、このまま騒いでも何も変わらないよ!・・・紅葉も何とか言ってよ!・・・・・・・紅葉?」


 美咲。誠に、誠に申し訳ないんだけどこれだけは言わせてほしい。


「・・・異世界転移だ!!」

 


ベシッ!



思い切りいい音で私の頭は叩かれた。


「あんたこの状況でよくそんなふざけたこと言えるわね・・・?覚悟はいいかしら?」

「い、いやだって実際に・・・」

「いいからもう余計なこと言わない!!ほら!変なこと言うからみんな唖然としてるじゃない!」

 それは私のせいだろうか?


そんなことを思っていると、外の光はさらに強くなり、私たちを覆いつくした。








—————そして—————





「ようこそ、勇者皆様!あなたたちには魔王を倒し、世界を救っていただきます!」

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