第30話:駄菓子屋


最寄り駅に着くと、ましろがいた。

思わぬサプライズに心臓がドクンと鳴る。

嬉しさと驚きのハーフ&ハーフ。

(会えてうれしいけど…なんでここに!?)

一応、周りをキョロキョロと確認する。周りには数人の人影。

…うん、知人はいなさそうだ。


主人公に気づくましろ。


「悠!よく帰ってきたの!」


「そりゃかえるよ」


ただいま、とましろに返す。

会えて嬉しそうにしているましろを見て、ぬいぐるみを渡すタイミングを考える。

どうしようかな…駄菓子屋についてからでいいか。



「…おぬし、昨日と服装がだいぶ違うのお。なんというか、今日の方が固い雰囲気でわしは好きじゃな。」


「これね、制服って言うんだ。学校で決められた服なんだ。」


ましろが制服をじーっと見つめている。

(そんなに珍し……まあ、こういうのなかったし、当然か。)

…ましろの服を見てみると、また昨日と変わっていた。


「ましろ、今日も服違うね?」


「ん?うむ。姉様に着付けてもろた。どうじゃ?」


自然な立ち姿に戻り、服をぱっとみせる。

こういうコーデ、なんて言うんだろう。

ちょっと袖あまりな服。

コーデ全体で見た時には違和感はあんまりない。けど、この辺では見かけないな。


「姉様が言うとったが…今の人に言わせれば"居そう"らしいのじゃが。」


「あー、うん。たしかにいそう。」


「あとは、この"こおで"?でこういう"ぽおず"をすると受けがいいと聞いたが、本当か?」


「どれどれ」


両手でピースして、ちょっとはにかむましろ。するどい八重歯がチャーミングだ。

まあ…かわいいけど…作った感が全面に出ている。


「…いいんじゃない?」


「やっぱり微妙な反応じゃのう!姉様め…いつもわしをからかいおって…」


「うすうす感づいてはいたんだ。」


「なんも知らんわしに対して、これを会ってすぐやればもっと仲良くできる、と言うんじゃよ?ひどくないかの?」


主人公に魔が差す。


「でもいまの服だったら猫の手のポーズも似合うかもよ?」


「ほんとか?」


「うんうん、やってみてよ」


にゃぁーん。

"猫に小判"の時のポーズ。


(ほんと、この子は何やっても絵になるな…。)


「…うんうん」


「やはり嘘ではないか!!」


シャーッ!と怒るましろ。

大丈夫だ、俺には現代知識がある。そこではさすがのましろも勝てまい。

それに、ここまで素直に姉様を信じてるのが、姉に対する信頼が深いものだと実感できる。

…なんか、ましろの姉様の現代情報って偏ってないか?

今度お姉さんに会ったときに聞いてみるか。


「というかましろ、よく駅の場所わかったね。」


「姉様についでにおしえてもろての。動く絵巻物でこの場所も一発じゃ!」


悠も持っとる"すまほ"?じゃったかの?あれはすごいのー、と感心している。

素直な子だな…


思わぬ出来事に立ち話が長くなってしまった。

ぬいぐるみの袋を持ち直して、ましろと一緒に駄菓子屋まで歩く。


現代の服を着ているましろは、猫耳としっぽを除けば普通の女の子にしか見えない。

和服だったら神秘さがあるので年齢を感じにくくなるが、普通の服になったとたん、幼さが出てくる。

「…今更だけどさ。ましろっていくつなの?」


「ん?わしの年か?」


うん。と、答える主人公。


「んー、いくつじゃったかの…もう覚えとらんの。」


上をみて考えるポーズ。

無意識にやっちゃうやつだ。

何かに気づいたましろが、主人公に向き直る。


「なんじゃ?わしの見た目が幼いから気にしとるのか。」


「あー、うん。そうだね。気を悪くしたらごめんだけど…」


ましろが薄い目をする。


「…やはりおぬし、ちと趣味が"良すぎる"のではないか?」


悠はたじろいだ。


「い、いや、だからそういう趣味はないって…!隣に並んで歩くときにちょっと…気になるだけさ。」


「にゃはは、わかっとるよ!安心せい。」


…ほんとかな。


「わしは小さくして…あの…アレじゃが…ええと、じゃから…その…」


ましろが変に言葉に詰まることに違和感を覚えるが、すぐに思いだす。


「…あ、そうか。外では言えないのか。」


「そう、そうなんじゃよ!これがまどろっこしくてのお。秘密を守るため必要とは思うが、急に言葉が詰まるもので話しづらいのなんの…」


ましろがイーと、嫌そうな顔をして続ける。

"急に詰まる"ってことは、自分の意志で黙ってるわけじゃないんだな。

…そんな仕組みがあるなんて…改めて、この力とその背景の大きさを実感し、圧倒された。


「話をもどすと、まあ、見た目より中身が育っとるというんかの?長年の経験という奴じゃ。」


「あれね、別の世界で長いこと暮らしてきたから、元の年齢の割に経験を積んできた、っていうことね?」


そうじゃ!という反応をするましろ。


「それに…ええと…体の形はかわる…から…意味がない、というか?」


「…ましろの、あの力でを操作できて、なおかつと体が連動してるから、もとの体は意味がない、ってこと?」


「そうじゃ!おぬし、やはり察しがええの!話が早くて助かるわい!」


ましろが感動している。

ちゃんと話聞いててよかった。


「…で、そういうことじゃから、わしはそういう風にもできるのじゃが、悠はどう思っとる?」


「うーん、そうだなぁ…」


それを踏まえて考える。

成長したましろ…それも見てみたい気持ちはあるけど。

(どう思うって…そりゃ…。)


「…その体がましろのそのままの等身大の形なら、それがいいかな。それが一番ましろっぽいし。」


「おぉ…悠よ…」


ましろが目をキラキラさせたと思ったら、パッと薄目になる。


「やはり、おぬしの趣味は…」


「だから!違うってば!」


にゃはにゃはと軽い笑い声が、水平線に吸い込まれていく。

まったく…変わらないなこの子は…


「ま、じゃから中身はもう立派な大人じゃと思てくれて構わん。そんな心配は不要じゃ。」


「…わかった。」


「もしケチつけるような奴がおったら…わしが引っ搔いてやるからな?♡」


「はは…たのもしいね。」


爪だしの猫の手ポーズで嬉しそうにしゃべるましろ。

本当にやりかねないのが反応に困る。

あの一件以来、猫っぽさを隠さなくなってきたな。

……でも、そういうところが、ましろの良さだとわかってきた。


なんて話をしていると駄菓子屋に着いた。

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