第2話『世界の仕様、理解しました。推しに死んでほしくないです』
赤ん坊として生まれ落ちて、三日。
俺はこの世界の仕様を、だいたい把握した。
というのも――赤ん坊なのに、頭はバリバリに回ってる。
泣く必要もなければ、ぼんやりもしてない。
むしろ、記憶も思考力も前世のまま。
これはもう、完全にチートだ。
(いや、これをチートと言っていいのか?)
俺はレオン・マクシミリアン・ヴァルネス――
帝国屈指の名門・ヴァルネス公爵家の嫡男にして、原作『暁の花嫁と剣の勇者』における最大の悪役。
この人生、下手に生きれば破滅まっしぐらだ。
だからこそ、今のうちに把握できることは全部把握する。
まず、ここは「神聖ラティウム帝国」。
魔法と貴族階級が支配する巨大な国で、ローマ帝国を魔法で強化したような世界だ。
この国には、“貴族と平民”という明確な身分制度がある。
帝都に住む人間でも、平民はほとんどが貴族に仕えている。
そして、もうひとつ重要なのが――
魔法とステータスの存在。
この世界には「ステータス」や「レベル」といった概念が本当に存在する。
生後まもなくでも、魔力適性の検査が行われ、各個人の魔力量・属性適性・成長性などが数値で判断されるらしい。
(そういえば原作でも、レオンは“無属性+闇”の希少な二重適性って設定だった)
魔力が強い貴族は、帝国において力の象徴だ。
それがあるからこそ、ヴァルネス公爵家は王族に次ぐ序列を誇っているし、
だからこそ、レオンの存在は“完璧すぎる悪役”として利用されていた。
「このままじゃ……また、原作と同じように殺される」
カイルに。
勇者に。
俺の“推し”が、また……。
違う。今回は違う。
今の俺は、彼の人生を知っている。
彼がなぜ誤解され、なぜ孤立し、なぜ破滅したかを。
そして、どうすれば救えるかも、知っている。
⸻
「坊ちゃま、お目覚めですか?」
扉が静かに開き、例の乳母――クラリスさんが入ってきた。
優しげな栗色の髪を三つ編みにしてまとめた彼女は、今日も俺の世話をしてくれる。
(……この人も、原作に出てた。たしか、レオンにとって数少ない“家族のような存在”だったはず)
原作では、レオンの暴走後、彼女は処刑された。
そんなの、二度と繰り返させない。
「坊ちゃま、明日には魔力判定の儀式です。緊張……なさいませんように。レオン様は、奥様の誇りでございますから」
クラリスはそう言って、そっと俺の額を撫でた。
――奥様。つまり、亡くなった母のことだ。
あの日から、彼女は毎日祈るように言っていた。
「お母様が命を賭してお産みになった、奇跡の子でございます」
奇跡。そうかもしれない。
けど俺にとっては、“やり直しのチャンス”だ。
⸻
この世界は、ステータスも、レベルも、才能もある。
だけど本当に必要なのは、選ぶ意志だ。
推しを救うためなら、どんな悪役にもなってやる。
けど、絶対に――破滅だけは繰り返さない。
「……よろしくな、レオン。前世のお前も、今の俺も、もう後悔しないようにしよう」
心の中でそっとつぶやいた。
まだ、赤ん坊のままだけど。
この世界の“運命”を壊すのは、もう始まってる。
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