7話 ちょっと長引く買い物

「高貫君って、家だといつも何してるの?」


「家ぇ? あー……テレビ見たりゲームしたり、あんまり特別なことはしてないんだよなぁ」


「何見てるのかな? 私も結構、ドラマとか見るんだけど」


「俺もドラマはまあまあ見るかな。って言っても今放送されてるやつってより昔やってたやつをサブスクで見る感じ。刑事ドラマとか、海外のとか」


「そうなんだ、私そういうのは見ないなぁ」


「じゃあ何見んの? それ以外ってなると、恋愛系とか?」


「れ……まあ、そう……かも?」


「何故に疑問形?」


 委員長と話しながら、俺は商品が並んだ棚を順繰りに見て回っていた。

 なんか話したそうだったし、ちょっとくらいなら結衣ちゃんも大丈夫かなぁって感じで、まだ頭の奥でつっかえているモヤモヤを何とか晴らそうとしている次第だ。


 ふーむ、全く思い出せない。喉元まで来てる感覚もない。

 ちょっと早足とはいえ大体の棚もう見たんだけどな。


「じ、じゃあ……今度高貫君のオススメ教えてくれないかな?」


「あー、いいよ」


 と、申し訳ないが生返事になりつつ答えたところで、俺はふと思った。

 どうやって教えりゃいいんだろう、と。

 折角の夏休みだし、今のうちに見た方が時間の有効活用だろう。

 ライン……交換した覚えないな。


 なんかもう、思い出せるかも分からないもの探すのも面倒になってきたし、俺は捜索を中止して委員長の方を向いた。


「なあ委員長、俺らってライン交換したっけ?」


「ふゅ!? き、急にどうしたの!?」


「めっちゃ驚くじゃん、なんかあった? いや、オススメ教えるのはいいけど夏休みだから直接会うことないだろうし、今パッと思いつかないし、ラインが都合いいかなぁ、と」


「あ、あぁ! そ、そういうことね! ご、ごめん大きな声出して! 全然! 全然勘違いとかしてないから!」


 何をそんなに慌ててるんだこの人。

 高校の時とキャラ変わり過ぎだろ。さてはあれか、プライベートだと面白い人か委員長。


 まーた顔が真っ赤な委員長を見ながら、俺は続きを待つ。

 すると、呼吸を整えた委員長は間を置いてから俯き気味に言った。


「……してないよ」


「あー、やっぱり。じゃあ追加しとくわ」


 俺はポケットに手を突っ込んでスマホを開く。

 ラインを開いて、確か一年の時のグループラインあったはず。あそこから探せば見つかるだろ……あれ?


 俺はしばしスクロールし続けるが、一度しか連絡取りあってないやつらが出てきた辺りで察しがついた。

 うん、俺これ一年の終業式のタイミングでグループ抜けてるな。もう使わないと思って。


 仕方がないので委員長にスマホの画面を見せる。


「悪い委員長。無理だった。今交換しようぜ」


「……い、今?」


「え、うん。他にいつすんの?」


 もしや、またここで会えるたらってことか? だとしたら随分自分の運に自信があるな。これまで会わなかったのに。

 何となくだけど、ここで交換しなかったら多分二学期始まるまで会わないと思うぞ。

 二学期になったら文化祭もあるし、交換しても無駄になることないだろ。


 というわけで、ほれ。

 俺は委員長に自分のスマホを近づけた。

 アワアワし出す委員長。見てて面白い慌てっぷりだ。


「ほ、本当に? いいの?」


「何なら、一年の時の同じクラスでたまに話してたのにここまで交換してなかったのが不思議なくらいだし。俺が言えたことじゃないけど。どうせなら今やっちゃおうぜ」


「……ぅん、ありがと」


 小さい声でそんなことを言われたので、俺は内心『なんでお礼言われるんだろ』と思いながらスマホの画面を見せ続ける。

 委員長は自分もスマホを取り出して、カメラ機能で連絡先を交換。

 通知が来たので見てみたら、可愛らしいデフォルメ動物スタンプが送られてきた。俺も適当に『よろしく』スタンプ送っておく。


「うし、帰ってからこれまで見たやつ漁ってみるわ」


「気が向いたらでいいからね?」


「早めにやんないと忘れそう」


 言って、俺はスマホをポケットに仕舞いこむ。

 直前に見たスマホの時計は、もうそろそろスーパーを出ないと結衣ちゃんが心配しそうな時間になっていた。初日から約束守れなさそうなのは大変申し訳ない。お願いだから兄貴直伝の必殺技とか繰り出さないでほしい。っていうかそんなもん直伝されないでほしい。


「俺、そろそろ帰るわ」


「あっ、姪っ子さん待たせてるもんね。ごめんね、引き留めて」


「いやいいよ。委員長はまだ買うものあるの? 俺に付き合わせちゃったけど」


「えぇっと……あとアイス買うだけだから、お会計の直前にしようと思ってたの」


 ……アイス。いいな、それ。

 子供なんてとりあえず甘いもの好きだろ。いやごめん、思いっきり偏見だけど。

 でも、もしかしたら結衣ちゃんの機嫌を直す秘密兵器になるかもしれないし、そうでなくても最悪俺が食えばいいだけだから全然ありだな。


「俺も行くわ。アイス買いたい」


「う、うん。じゃあ、一緒に行こう」


 そんなわけで委員長と一緒にアイス売り場まで行き、個数の入った箱のアイスを購入。とりあえず王道のバニラ。チョコも混じってるやつ。

 委員長はと言えば何やらこだわりがあるらしく、迷いなくコーンがあるやつを選び取っていた。ちょっと嬉しそうなので、あれは多分委員長が食べるんだろう。


 目的を果たした俺たちはレジへ。

 ちゃちゃっと終わらせてエコバッグにものを詰め込み、肩にかけた。

 そのままの流れでスーパーから出るというところで、


「き、今日はありがとう、高貫君」


 なんて言われたので、俺は今日礼を言われるようなことをしただろうかと思いつつ首を横に振った。


「何もしてないから気にしないでくれ」


「私とお話してくれたし」


「友達と話すくらいするだろ、何言ってんだ」


「め、姪っ子さんが怒ってたら私のせいにしていいからね!」


「それはしないから安心してくれ……」


 三十分くらいで帰るって言ったのは俺なんだから、人のせいにするのはカッコ悪すぎる。

 さっきからちょこちょこテンションおかしいけどやっぱり風邪なんだろうか。だとしたら早く帰さねば。アイスも溶けるし。


「じゃ、またな委員長」


「う、うん! またね!」


 手を振った俺に委員長は手を振り返した。

 それを視界の端に収めながら、俺はアイスが溶けないようにまだ暑い中走って帰ることに。


 道中で考えるのは、結衣ちゃんが心配してないだろうかということだった。

 心配になって探しに家を出たりは絶対しないだろうけど、さすがに不安にはさせただろうから謝らないとなぁ。

 結衣ちゃん、アイス好きだといいんだが。


 走ること五分足らず。

 到着したマンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗って俺の家の階まで直行。

 そしてポケットから鍵を取り出して開けた。


 そこには出迎えが――あるというわけではなく、廊下の先でリビングに明かりがついているのが見て取れるだけだった。

 俺の部屋は電気ついてないので結衣ちゃんはリビングにいるのだろう。


「ただいま帰りましたー」


 あんまり怒ってないといいなぁ、と思いながら敬語で帰宅を伝え廊下を歩く。

 恐る恐るリビングへの扉を開けて、俺は目を見開いた。


「――――すぅ」


 寝てた。

 あどけない表情を浮かべながら、すやすやソファに横になって眠っていた。

 俺はどうやら待たせすぎたらしい。


「……疲れてたか。ま、そりゃそうだな」


 慣れない環境に適応するのは、どう足掻いたって疲れるもんだ。

 笑いながら買ったものを冷蔵庫に詰め、案の定やってなかった炊飯をしてしまう前に、俺は部屋まで行ってタオルケットを持ってくる。

 そして、まだ起きる様子のない姪っ子の小さい体がこれ以上エアコンで冷えないようにかけてやった。


 さて。


「夕飯、作るか」

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