第1章閑話 その4 ブレイブ&ウィッシュのコラボイベント3

 難易度リアルは……非常に激しい戦いであった。


 そこで示されていたのは「本物の俺」と、「本物の結希」の力である。


 ただし「機体に乗った」という単語がつくのだが。




 パーティーを組むと、能力に大きな補正がつくと警告がされていた。


 実際、四人で戦ってみたところ、とても勝てそうにない。


 そのため、単独で戦うこととなった。




「強さもだけれども、フィールドが最悪! 古城なんて、久郎の独壇場だよ!」


「こちらは荒野だ。おまけに、真・グランドクロスまで追加されているぞ」




 まさか巨大バグとの戦いのような、絶望感をもう一度味わうことになるとは思わなかった。


 そのくらい相手の動きは激しく、かつこちらの受けるダメージがシャレにならない。




「模擬戦なら、勝てるはずなのに……これは無理ゲーだよ!」


「参ったな。こちらも勝ち筋が見当たらない」




 なお、みかんとミカは完全に、観戦モードである。


 一度だけ単独で戦ったものの、あっという間に倒されてしまい、どうにもならないと判断したようだ。




「それにしても、どこからこの動きを取り込んだのだろう? モーションキャプチャーだけでは、足りないはずだよ?」


「恐らく、監視カメラなどで俺たちが行った、戦闘データを使っているのだろうな」




 幸いなことに、魔法として放たれる技はすべて機体の武装を再現したものである。


 そのため、範囲攻撃がないという点ではイベント戦闘よりましな状態だ。




「でも、この差はどうにもならないよ。どうしたらいいのかな?」


「ふむ……もしかしたら、あれを使えということなのかもしれない」




 6度目の戦闘をスタートさせる。


 そこで、俺はあの言葉を試してみることにした。




「さて、どんなことが起こるのか。『アルカナバースト』!」




 “マジシャン、起動。モード『魔弾の射手』に移行します”




 少し、懸念はあった。


 だがこの力は「チートツール」扱いはされないようで、一安心である。




 俺の銃に、機体で使っていたさまざまな武器が浮かび上がる。


 なぜかその使い方は、すぐに分かった。




「これでようやく、スタートラインだ。行くぞ!」




 結希のコピーである、セイラとの戦いが始まる。


 ただ、今までとは全く違う展開となった。




「ここでワイヤークロー、相手の攻撃を回避。そのままビーク・スマッシュ!」




 銃から次々と、今まで使っていた技が放たれる。


 明らかに物理法則に反しているのだが、ここはあくまでも仮想の世界。


 すんなりと、受け入れることができた。




 いつもの模擬戦とは異なり、相手は大剣を持っている。


 だが、いつもの結希が見せる鋭さに比べれば、所詮使い慣れない武器でしかない。


 こちらの背中には翼が生えており、ブースターと同じ感覚で移動できるようだ。




 こうなれば、フィールドの相性が悪くても問題ない。


 武装をフル活用して、相手を追い詰めていく。




「とどめだ! フルバースト!」




 ワイヤーを使い、相手の背面に回り込む。


 そのまますべての武器を、まとめて解放した。


 その攻撃でついに相手は倒れ、粒子となって消えていく。




「なるほど。この世界では、機体の装備を使えるようになるという効果があるようだな」




 恐らくこれは、この世界で発動する能力であろう。


 現実世界では、別の効果が発揮されると考えられる。




 一方、結希の方もアルカナを発動させていた。


 こちらは「正義」。


 相手の攻撃に対し、結希はひるむこともなく受け止めている。


 恐らく防御力が、極限まで高まっているのだろう。


 正義というアルカナの効果としては疑問であるが、そもそもこの世界で発動することを、想定していなかったのかもしれない。




「よし、捉えたぞ!」




 そこから結希が見せた動きは、凄まじいものであった。




『猛禽連撃』としてスタジオで見せたのは、横薙ぎ、切り上げ、そこから切り下ろしの三連撃である。


 しかし結希は、それをはるかに上回る攻撃を行った。




 まず、左から右への横薙ぎ。


 次に、右から左への薙ぎ払い。


 これらは『隼』を使っているようだが、もはや『燕返し』と名付けたほうが良さそうな動きである。




 そこから『鳶』による切り上げ。


 跳躍を加え、相手よりも高い位置をとることに成功する。




 そして『鷹』だ。


 位置エネルギーの分、地上で行う『鷹』よりもさらに威力が向上している。


 更に、それで終わりではなかった。




「これで……ラスト!」




 何度も切りつけた、その中心点。


 一番傷ついているところに、思いっきり『百舌』を叩き込む。


 貫通し、背中から刃が飛び出しているのがはっきりとわかった。




 これでは、ひとたまりもない。


 アルカードも倒れ、同じように粒子となって消えていく。




「男子三日合わざれば、というけどにゃ……一日でこれにゃ」


「結希の戦闘データは、すぐに役立たずになる。研究者涙目」




 みかんとミカがこちらに向ける視線は、むしろ化け物を見るようなものであった。




「いや、これはあくまでもアルカナの力を使ったからだぞ。おまけに、クールタイムがどれほどなのかも分からないのだからな」


「そうだよ。それに、みかんも機体の力を呼び出せるのならば、同じように戦えると思うよ」




 俺たちが抗議するが、二人は首を振るだけであった。




 とりあえず、これでイベント報酬はすべて獲得したことになる。


 掲示板を見てみると、イベント戦闘はクリアした者がいるようであるが、ノーマルとの戦いでも苦戦しているようだ。


 全体メッセージで、ハードの更に上に隠された、リアルが攻略されたという情報が流れ、掲示板に宇宙猫うちゅうねこの画像がいくつも表示された。


 その中にはマオや、ミカのIDも加わっている。




 ともあれ、この「アルカナバースト」は切り札足り得るものであることが分かった。


 クールタイムを確認し、検査の時にこの世界での効果も報告することにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る