第1章 第12話 答え合わせ

「明、大正解。見事に読まれたわね」




 舞の表情からは、悪びれた様子は読み取れない。


 三人の試合で行われた行為は、明らかに悪意に基づいたものであった。


 こちらに対する悪意がないのか、それとも表情に出ないサイコパス、なのだろうか?




「結希と久郎の試合があるから、簡単に説明するわね」




 舞の話は、驚くべきものであった。




 今回の一連の事態により、ある教師と恒河社こうがしゃの繋がりが確実となった。


 そのため現在、警察署とヒーローズネストが共同作戦を行い、その教師を排除すべく行動しているとのことであった。




「ただ、どこまでが敵なのか分からない状況で、身動きが取れなかったの」




 繋がっていた教師は、なんと「教頭」だという。


 そのため念入りに証拠を固め、配下と共に一網打尽にする必要があった。


 ゆえに、こちら側に対する不当な干渉に対し、対応しきれなかったということである。




「あなたたちには、謝るわね。囮に使ったようなものだから」




 舞の謝罪に対する三人の答えは、彼女を責めるものではなかった。




「しかたねーな。そんな奴を野放しにしていたら、いつ寝首を掻かれるか分からねえし」


「ええ。恒河社の手先がそんなところまで、食い込んでいるのは想定外でしたから」


「一匹見つけたら、百匹いると考えたほうがいいにゃ。徹底して洗い出すべき、だにゃ!」




 みかん、それは別の生き物の話では……?


 それはさておき、そろそろ聞いておいた方が良いだろう。




「すまない。その「恒河社」、及びあいつらが言っていた「抗砂こうさ」について、聞きたいのだが」


「うん。そこが分からなかったから、僕も話が見えていないよ」




 三人+舞はハッとした表情になり、慌てて説明してくれた。




 まず「恒河社」は、カントウ方面に存在する民間会社とのことだ。


 名前の由来は数の単位、恒河沙こうがしゃからとられている。




 地方から運ばれる商品は、この会社を通してカントウ方面に持ち込まれることになっている。


 その卸売市場を通してこの会社は、多大な利益を貪っているらしい。




 加えて民間会社でありながら高い軍事能力を有し、警備部門を通じ、反政府主義者に対する弾圧を行っているとのことだ。


 恐るべきことに、自衛隊からの武器の横流しまで受けているらしく、しかも警察はそれを野放しにしているどころか、協力しているとのことだ。


 カントウ方面はほぼ、独裁国家とみなしていいだろう。




 そして、それに対抗する勢力は「抗砂」と呼ばれている。


 恒河沙はガンジス川流域の砂の数を意味しており、それになぞらえているようだ。


 砂のような、取るに足らない存在というおごりも含まれているらしい。




「まあ、あえて悪い言い方をするとあたしたちは、テロリストということになるな」




 明が自嘲するように、口にした。


 確かに言葉の定義を当てはめれば、テロリストということになる。




 そして残念ながら、抗砂同士の繋がりはあまりない、とのことである。


 信用したところで、実は恒河社の人物であったという裏切りも、日常的に行われていたことが影響しているようだ。




「みんな、ありがとう。あなたたちの協力のおかげで、2年生の敵討ちができたから」




 舞の言葉は、重い。


 フジ中央高校の、ヒーロー科2年生は全員「MIA(戦闘中行方不明)」として処理されている。


 変異種のバグとの戦いの中、ねじ曲がった空間に巻き込まれ、全員が姿を消した。


 大々的に報道された、痛ましい事件である。




「本来ならば、別の地区からもヒーローが、駆け付けるはずだったの。ところが妨害によってそれが出来ず、2年生だけで戦うことになって……」




 事件発生当時、3年生は遠征中であり、1年生は別のバグ発生に対応していた。


 何度となく増援要請を進言したものの、更なるバグ発生の危険性を盾に、却下されたという。


 そのため、この最悪の事態を招くことになったとのことだ。




 カントウ方面では、こちら側のヒーローの力を削ぐことに、かなり力を入れているらしい。


 恐らく戦力差が大きくなれば、武力制圧も考えているのだろう。


 バグという敵を前にしてなお、自分の欲望が最優先だというのか。




「しかし妙な話だな。カントウ方面は、何らかのマインドコントロールを受けているのではないだろうか?」


「それは、間違いないでしょう。少なくとも水道、大気は汚染されていましたから」




 漣の発言に、俺たちは硬直する。


 水道という、誰もが利用しなければ生きていけない部分。


 更に、大気という見えない脅威。


 それに手を出すというのは、禁忌の所業だ。




「多分、電波もやられていたにゃ。なぜシズオカだけ、それを逃れられているのかは分からないけどにゃ~」




 そこまで、するというのか。


 今までの異常な事態の原因が、分かってしまった。




 何重もの洗脳により、住民はまともな判断力を失っている。


 加えて、わずかな判断力を有している者たちは、恒河社の餌食となっているのだ。


 これが、ニホンで起きていることとは信じられない。




「最近では、抗砂や正常な判断力を有している者たちを、取りまとめる動きもありました」




 とある宗教団体が、中心となってそれを行っているらしい。


 その者たちは教義を押し付けることもなく、互助活動として恒河社に立ち向かっているとのことであった。


 もっとも戦局は、良いとは言えず……故に明、漣、みかんの三人は、トウキョウを離れシズオカに避難することにしたという。




「そろそろ、時間ね。とりあえず、状況はそんなところだから」




 舞が手を打ち、話が終わる。




「そして結希と久郎にも、謝らないといけないわね。私たちが教頭の捕縛を主導していると、バレるわけにはいかないから」




 そのため、踏み込む時間帯に俺たちが教師と戦い、アリバイ工作を行うとのことだ。


 ようやく事情が分かり、戦うことへの覚悟も決まった。




「教師として、全力をもって戦うわ。その代わり、善戦すれば高評価をつけることができる。あなたたちの力を、見せてもらうわね」




 先に戦うのは、結希の方だ。


 俺たちは、控室に向かうことにした。




 これは、絶対に負けられない戦い「ではない」と判明した。


 しかし、善戦することは強く求められている。


 瞬殺されないよう、全力を尽くすとしよう。

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