第1章 第3話 巨大バグとの死闘 その2
俺たちは、脚部の関節を狙うことにした。
凄まじい速度で振るわれる足。
常識的に考えて、狙えるとは思えないだろう。
それを可能にしているのが「ドメイン」と呼ばれる領域である。
元々ヒーローが有する、人間離れした反応速度、腕力、耐久性。
機体によってヒーローの力が増幅され、映画のような動きを現実で行うことすら、可能としている。
もっとも、俺たちが使う「ディサイプル」は量産機であるため、ドメインはあまり広くない。
専用の機体ならば、もっと有利に戦えるのだが……ないものねだり、である。
“入っ……た!”
“こちらも、何とか一本!”
末端部に、ダメージを与えていく。
本体へのダメージはほとんどないだろうが、機動力を削がなければ話にならない。
既に俺たち二人とも、汗だくである。
ギリギリの戦いは、心身ともに著しく消耗させられる。
その中で、吉報が届いた。
すぐに召喚し、狙いを定める。
“待たせたな。これで、どうだ!”
近接攻撃が届かない、頭上の太い関節に「実弾入り」の銃を連射する。
緑色の液体が飛び散り、ガラスを引き裂くようなバグの悲鳴が上がった。
関節より先の部分は垂れ下がり、動かせなくなっているようだ。
この戦いが始まってようやく、まともにダメージを与えることができたと思う。
バグが明らかに、こちら側を警戒する体勢に入った。
残る足を連続して繰り出し、俺を狙ってくる。
“こっちも……見ろ!
結希が大きく跳躍し、別の太い関節に剣を叩きつける。
銃の攻撃同様、体液をまき散らし、悲鳴を上げるバグ。
かなり危険な行動であったが、それだけの価値はあったようだ。
その時、通信が入る。
「大型の衝撃波が来ます! すぐに退避してください!」
コクーンを守っていた機体から、焦りをにじませる声が届く。
俺たちは全力で、左右に分かれた。
背中に装備されているブースターも使い、全力で回避行動に専念する。
そして、俺と結希の機体の間に強烈な衝撃波が放たれた。
回避してなお、大きく機体が揺さぶられる。
直撃していたら、ひとたまりもなかったであろう。
「コクーンを守りつつ、相手の動きに注目します。大型の衝撃波が来そうなら、すぐにお伝えします!」
彼女の申し出は、本当にありがたい。
俺たちの視界からでは、羽の部分に注目することは難しい。
そこを補ってもらえるだけでも、戦いやすさが変わってくる。
俺は指を上げるジェスチャーを送信し、感謝の意を示した。
その後も、厳しい戦いが続いた。
関節への攻撃は、確かに痛みを相手に与え、動きを鈍らせる効果がある。
しかし、本体にとってはあくまでも末端部分であり、致命的なダメージにはつながらない。
対するバグは、足を掠らせるだけでもダメージを与えられる。
加えて、威力の低下とひき換えに、幅を広げた衝撃波を織り交ぜてきた。
こうなると回避しきるのは、非常に困難となる。
彼女のサポートを受けていてなお、ダメージが蓄積していく。
モニターに表示される機体の損壊率が、40%を超えた。
ゲームのHPであれば、0になるまで行動可能であろう。
しかしこちらは、重要なパーツが破損したら終わり。である。
これだけの損壊率では、いつ機能停止を起こしても不思議ではない。
“このままではジリ貧だぞ、どうする?”
“こうなったら、直接頭を狙う。リスクはあるけど、勝負するしかない!”
これだけ戦っていても、増援が来ない。
戦闘を長引かせるのも、限界に達している。
俺たちは、意識を切り替えることにした。
その上で判断すれば、結希の考えは正しい。
頭部を狙うことにより、大ダメージを与える。
上手くいけば、倒すことも可能であろう。
ただし、通常の攻撃では不可能である。
それこそ、爆弾並みの破壊力を要するはずだ。
幸いにも結希は、それを可能とする「必殺技」を有している。
もっとも、その技を使うために、大きな制限がある。
“高い威力を出すには、溜める時間が必要。どうしよう?”
“時間、か。その間に攻撃されたら、それで終わりだろうし……”
それが、この技の一番大きな制限だ。
溜める時間が長ければ長いほど、それに応じて威力は跳ね上がる。
しかし、相手の猛攻は悠長に溜める時間など、与えてはくれない。
“すまない。一分ほど、この場を支えてくれ。解決手段がある”
“一分……なるべく早く、お願い!”
シンクロニティは、表層心理ならばすぐにやり取りできる。
だが、高度な考えを共有するには時間がかかるため、今は結希の信頼に任せることにした。
俺は公園の入り口の方に向けて、全力で走りだす。
「え?! このタイミングで逃げるのですか?!」
彼女が戸惑い、こちらに通信する。
だが、今はそれに答える余裕がない。
俺は、公園の入り口にたどり着いた。
そこには、夜間侵入防止のために設置されている、ポール付きの鎖がある。
これを借用し、ワイヤーを限界まで使って補強するというのが俺の考えだ。
思いっきり引き出して、端をナイフで切り取る。
これは緊急避難として、許してもらうことにしよう。
“待たせたな、結希!”
“ごめん。もう限界に近い!”
早速、行動に移すことにした。
鎖の間に、ワイヤーを通して網のような形に作り替える。
一方を地面に固定し、もう一方を持って俺は、バグを飛び越えることにした。
ブースターを吹かし、何とか足、そして衝撃波をかわしていく。
多少の被弾は、もはや仕方ないだろう。
何とかバグの後ろに降り立ち、思いっきり鎖とワイヤーを引っ張る。
結果、バグは見事に網の中に捕らえられることとなった。
足も羽も、上手く動かせない状態である。
“おぜん立ては整ったぞ、結希! 後は頼む!”
“分かった。はぁ~~!!”
結希の持つ剣に、強大なオーラが溜まっていく。
バグは必死に逃れようとするのだが、その動きはますます行動を困難にするばかりのようだ。
“これでも、喰らえ! 『
結希が限界まで込めた力を、バグの頭部に振り下ろす。
バグの体に遮られ、こちらからは様子を見ることはできない。
果たしてこの攻撃は、通じたのだろうか……?
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