序章 第4話 訓練風景

 俺たちが向かったのは、アオバ訓練所という施設だ。


 アオバ公園という広い敷地内に、機体用の訓練施設が併設されている。


 家から近くて広く、料金が安いので愛用しているのだ。




「機体」という言葉がいきなり出て、驚いている者もいるだろう。




 機体とは、ヒーロー側が開発した、バグに対抗するための「鎧」のことだ。


 高さは3.5メートルくらいで、搭乗者の動きをサポート、必要に応じて強化するシステムが採用されている。


 RリベリオンSスーツという呼び方もあるが、ニホンでは単に「機体」、あるいはヒーローごとに決められた「機体名」で呼ばれることが多い。


 最新の技術と魔法の組み合わせにより、人間離れした運動能力、防御力などを有している。


 今では、バグに対抗するために不可欠な存在と言えよう。




 ちなみにバグとの戦いにおいて、それまで細々と命脈を繋いできた「魔法」もまた、歴史の表に現れることになった。


 今では科学と並び、魔法も一般的な概念として受け入れられている。


 機体が示すように、両者が相対立するものではなく、むしろ相乗効果を発揮したこともまた、普及に至った一因だと思われる。




「ところで、なぜリベリオンなんだろう? これって、反逆という意味だよね?」


「さあ。開発者なら分かるのかもしれないが、俺にはさっぱりだ」




 首を傾げた結希に、俺が反応する。


 外聞が悪いため、外国では別の名前になっているかもしれない。




 俺たちが現在使用しているのは、第一世代の機体「ディサイプル」の改良型だ。


 ヒーロー見習いは全員、この機体を使用している。


 もっとも個人の性質に合わせ、さまざまなカスタマイズが可能である。


 結果、武装も性能も大きく異なる「同型機」が、多数存在することになっているのだ。




 なお正式なヒーローには、別の機体が与えられる。


 そちらは専用機となり、機体名もバラバラである。


 整備スタッフは下手をすると、ヒーロー以上にきつい仕事をこなしているのかもしれない。




 訓練施設では、試験に向けた追い込みで、多くの機体が戦いを繰り広げている。


 見慣れない機体は、試験を機にシズオカに移住する者のものであろう。




 俺たちは利用料金を支払い、施設の一角を借りることにした。


 待つことも覚悟したのだが、幸いスペースがあり、すんなり借りることができた。


 俺たちは10メートルくらの間合いを取り、機体を呼ぶことにした。




「それじゃあ、行くよ~! 『フェイズシフト』!」




 結希の呼び声とともに、結希を光が包み込む。


 光が消えると、剣を両手で構えた白い機体が現れた。




「フェイズシフト」とは、機体を実体化させるための呼び声である。


 実体化と同時に、搭乗者の固定なども行われる。


 そのため、即座に戦闘状態に移行することができるのだ。




 こちらも呼び声を口にして、機体を呼び出す。


 黒く塗装されており、右腕部にクロー、左腕部に尖ったシールドが装着されている。


 更に右手には銃、左手にはダガーが握られており、武装の数ではこちらの方が圧倒的に多い。




 実戦に近い形をとるため、試合開始の合図はない。


 そのため機体が呼び出されると、すぐに戦いは始まった。




 初手は、結希の方であった。


 こちらに向けて、凄まじい速度の突きが繰り出される。


 彼はこの技を「百舌もず」と名付けており、まともに食らえば一撃で「はやにえ」になってしまうだろう。




「前より早くなっているな。ギリギリまで引き付けて……今!」




 俺はシールドを使い、攻撃をそらす。


 絶妙なタイミングではじくことにより、体勢を崩すことを狙う。


 もっとも残念ながら、逆効果になったようだ。




「やるね。なら、次!」




 はじかれたことで、横方向のエネルギーが発生する。


 それを利用して一回転し、猛烈な勢いで放たれる斬撃がこちらを襲う。


はやぶさ」と名付けられたこの技もまた、まともに食らえば戦闘不能になりかねない。




「危ない! エクステンド・クロー!」




 体勢が崩れなかった時点で、俺は近くにある木に向けて、右腕部のクローを射出していた。


 これにはワイヤーが繋がっており、それを活かして通常では不可能な動きを行うことができる。


 今回は巻き取ることにより、結希の間合いから一気に離れることができた。




「今度はこちらだ。フェザー・ダート!」




 左腕部のシールド内に仕込まれていた、ダーツを結希に向けて射出する。


 牽制ではあるが、接触することで電流が流れる仕組みになっている。


 そのため当たれば、「痛い」だけでは済まされない。




「それは甘すぎるよ、久郎!」




 この動きは、完全に読まれていたようだ。


 結希の持つ、唯一の遠距離攻撃「飛燕ひえん」。


 魔力を含んだ斬撃が放たれ、ダーツはすべて迎撃された。


 だがそれはまだ、こちらの予想通り。




「続いて、バースト・ショット!」




 右手に握っていた銃を、連射する。


 他の技に比べ、飛燕はやや硬直が長めである。


 そこを狙うことで、確実に命中させることにした。




「まずい。ここは、この手!」




 結希が選んだのは、キャンセルと呼ばれる技術であった。


 これは技によって生まれた硬直を、新たな技でカバーするというものである。


 終了後にはさらに大きな硬直が生まれるため、多用することはできないが……この状況では、非常に有効であろう。




 もう一度発動した飛燕により、銃弾が吹き飛ばされる。


 それも、銃弾3つを一撃でまとめて、という離れ業だ。


 だが、これで戦いの流れは、大きくこちらに傾いただろう。




「とどめだ! シャープ・スライス!」




 俺は機体の後方にある「ブースター」を利用して、一気に結希に近づく。


 硬直している結希に対し、左手のダガーを突き刺そうとした。




「そう来ると、思っていたよ!」




 結希はなんと、キャンセルによって生まれた硬直をさらに、別の技で打ち消すという方法で対処してきた。


 ぐるりと回転し、こちらに迫る刃。


 間違いなく、隼の挙動だ。




 結果は、相打ちであった。


 こちらは心臓部を切り裂いていたが、結希の剣も俺の胴体を薙ぎ払っている。




 訓練用の武器であるため、どちらも実際のダメージを受けたわけではない。


 しかし、無情に響くブザーが共に、致命傷であることを示している。




 以前はできなかった、キャンセルのキャンセルを成功させる。


 結希は、俺が思っていた以上に成長していたようだ。

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