あにめ・まふぃあ! ~麻薬王の俺がどうしてこうなった~

ゆにこーん!【公式】

第1話 革命の日

ガシャーン!


テーブルからグラスが落ちる。

国際マフィアのボス、通称KINGが激高している。


ここはルワンダの首都、キガリ。

とあるビルの中で、屈強な男達がさらに屈強な男の前で固まっている。


「どういうことだ!ブツの売り上げが落ちてる!?しかも理由がアニメとマンガとゲーセンだと!?ふざけんな!」


部下たちはKINGを刺激しないように下を向いている。

仄暗い部屋の天井にはゆっくりとファンが回っている。湿った空気が天井から床へと落ちてくるたび、KINGの怒気をさらに増幅させていた。


KINGの体格は異常だった。身長は2メートルを超え、背中には銃弾の跡が三つ、腕には鋭利な刃物でできた無数の傷。伝説の抗争を一人で終わらせた男。その視線ひとつで人を黙らせる怪物。


奥歯を噛み締め、KINGは壁に向かって拳を叩きつけた。

コンクリートの壁が砕け、ひび割れの奥から配線がむき出しになる。


「ゲーム?アニメ?ゲーセン?ふざけんな!」


KINGはデスクにあった新聞紙を手に取り、睨みつけた。

そこにはこう書かれていた。


“若者の間でアニメ・マンガ人気が爆発。夜間の外出減少により路上の薬物売買が激減。”


“日本のサブカルチャーが麻薬需要を侵食中。『現実より面白い』との声。”


“ドラッグよりオシカツ。SNSの影響大。”


「……ふざけやがって」


人間の頭蓋骨をも砕く『鉄の右手』の握力が新聞を包み込む。


「オレたちの稼ぎを奪ってる連中が、バカみてぇに目がデカくてバカみてぇに乳がデケェだけのアニメだと?マンガだと!?」


KINGが眉間に皺を寄せる。

部下たちはビクッと肩を震わせる。KINGが黙るとき、それは良からぬことを考えているとき。


湿った空気が蒸発しそうなほどの殺気。


「……おい、お前ら」


KINGが低くつぶやいた。


「アニメに黒人の主役って、どれだけいる?」


誰も答えられない。


「オレたちみたいな肌の色のやつが、プリンスになったことあるか?プリンセスになったこと、あんのか?」


沈黙。


「オレたちはいつも、悪役か背景だ。」


KINGはゆっくりと椅子に腰を下ろした。

手を組み、初めて静かに語るような声を出した。


「ガキどもがハマってるもんが、オレたちを潰す力を持ってんだ。なら―」


彼の目が赤く光ったように見えた。


「俺らはそれを奪えば良い。」


張り詰める空気。


「オレたちはヤクで世界を動かそうとした。でも時代は変わった。ヤクじゃガキどもは動かねぇ。いま、世界を動かしてるのはー」


一瞬、部屋の空気が変わる。銃を撫でながらKINGは言う。


「ワンピースだかなんだか知らねぇが、海賊をしたこともねぇヒョロッヒョロの日本人が海賊マンガ描いてるよなぁw」


誰も肯定も否定もできない空気の中、KINGは続ける。


「ハンターだかマンタだか知らんが、人殺したこともねぇヒョロッヒョロの日本人がコロシありの冒険マンガ描いてるよなぁw」


笑いながら言うKINGに合わせるように、その場の全員がひきつった笑みを浮かべる。当然『自分も読者です』なんて言える雰囲気ではない。


KINGはソファに座り、葉巻に火をつけ、ゆっくりとうまそうに深く吸い込む。並の人間ならば咽るような葉巻の煙。KINGは余裕の表情でそれをしっかりと肺の奥まで入れる。


そして煙を天井に向かって吐き、ゆっくりと立ち上がった。

天井のファンがカラカラと音を立てながら、彼の背中に獣のようなシルエットを落とす。


銃口のない武器を、KINGが理解した瞬間だった。


「―おい、お前ら」


部下たちは顔を上げた。


「アニメ作るぞ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る