特別な日


「お誕生日おめでとうございます」


 窓の外の入道雲を眺めていると、祖母からそんなメールが来て、そういえば今日が自分の誕生日だったと思い出した。


 まだ世間では「若者」とか「新世代」とか言われる年齢でありながら、そんな自覚は無くなっている。


 外ではセミが小さく鳴き続け、すこし暗い空の向こうで、入道雲だけは眩しいくらいに白かった。


 なぜかため息がこぼれた。

 お礼のメールを返してから、なんとなく昔を懐かしく思う。


 誕生日がいちいち楽しみだったのは、果たしていつまでだったか。自分の人生から特別な日が消えてしまったのは、果たしていつからだったか。

 …………どうにも思い出せない。

 

 年々錆びていく「若さ」を感じながら、すこし触っただけで熱を持つようになったスマホを放り投げる。大学入学のお祝いにもらったものだ。


 窓の外はまた少し暗くなり、夕立ちでも来そうな空気へと変わっていく。白い入道雲はもう見えない。


 私は少しの後悔を噛み締めながら、苛立たしく窓を閉め、扇風機の風量を2つ上げる。


 これが今年の誕生日。

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