膝枕の殺意

龍玄

第1/2話 膝枕の快感

 芳田篤史(41)は、電気関係の専門学校を卒業後、配電設備の会社に就職した。28歳から一人暮らしを始め、性欲は風俗で解消していたが、他の面ではしまり屋で、貯金は1,000万円を超えていた。

 ある日、芳田はネットで風俗店とは異なるマッサージ店を検索し、耳かき店を見つけた。性的サービスはないものの、可愛い若い女性が膝枕などをして癒してくれるところだった。芳田は好奇心MAXでその店に来店した。接客したクラスの優等生のような山尾里奈に心を打ち抜かれた。それ以来、芳田は週末ごとに里奈を指名し、60分4,800円の膝枕の媚薬の虜になっていった。

 顔馴染みになった芳田は里奈の20歳の誕生日に店に来てほしいと言われ、近くの駅でプレゼントのゼリーを買い、駅のコンコースを歩いていた。そこで、里奈とバッタリ会ってしまった。里奈はそれを待ち伏せと誤解し、店に行くのが怖くなり、店に通うのを止めたが、数日後、里奈がブログで〈突然だけど元気かなぁピヨ吉(里奈さんと芳田しか知らない人形の名前)〉と書き込んだメッセージを見て、自分に向けられたものだと直感した。店で里奈に会って誤解を解き、それがきっかけで一気に打ち解けると、喪失感からの復刻は、執着心を煽り、それ以降は1日7〜8時間も粘るようになった。

 里奈さんは芳田に打ち解け、自分の家族のことなども話すようになっていた。当初から芳田は「芳川」という偽名を名乗り、36歳でIT企業に勤めている。月給は70万円位あるなどと見栄を張り、月30万円近くを里奈に束縛するために充てていた。

 里奈が、夜は系列店でアルバイトをしたいと言えば、その店にも通い、それが終われば、また昼の店でも里奈を指名するという具合に、他の客には指名させたくないと大金をはたいて里奈を独占し続けた。その間に里奈は人気No.1の耳かき小町に昇り詰め、テレビにも出演するようになり、月収は68万円などと公言していた。

 クリスマスに芳田は里奈に任天堂のゲーム機を贈り、里奈からはカード入れを貰った。芳田は年末年始は9日間連続で通い詰め、里奈はバレンタインデーには手作りチョコだといって渡していた。贈り物の対価の違いは関係ない。繋がっていることが大切だった。ホワイトデーの頃には、「私、これからは17時以降は店にいないことにする。あなたのために空けておくから、お店に来てね」などと言われ、吉田は「俺への配慮、思い」だと使命感に突き動かされていた。後押ししたのが里奈からメールアドレスも教えてもらい、直接連絡して予約を取り付けるなどしたため、「自分は特別な客なんだ」と自負するようになっていた。芳田は意を決して里奈を食事に誘った。

「そうね、外での姿も見たいわね」とあっさりOKを貰い、芳田は飛び上がるほど喜んだ。約束の日に店に行くと、「やっぱり外で会うのは禁止されてるから…」と断られ、ガッカリした。


 「オレはこれだけ尽くして通ってるんだからいいじゃないか」

 「今日は体調が悪いの……」

 「食事にも行けない位体調が悪いのか。だったら仕事なんかせず、家に帰ればいいじゃないか」

 「店の売り上げのために帰れない。どうして分かってくれないの」

 「オレの事、どう思ってるんだ。付き合ってくれないなら、もう店に来ない」 

 「そういうつもりで来ているなら、もう来ないでください!」


 「馬鹿にするな」と芳田は捨て台詞を吐いて、店から出て行った。里奈は、もう彼を接客するのは限界かもしれない、と感じ、店長に事態を報告し、芳田を「出入り禁止」にすることに決めた。それを知らない芳田は予約するために里奈にメールを送ったが、「もう来ないでください」と返信されてた。「なぜだ?」という問いかけに「もう無理です」と繰り返すばかりだった。埒が明かない。芳田は1カ月後、仕事から帰る途中の里奈を尾行し、自宅近くで声をかけた。里奈はギョッとし、「もう無理ですから」と言って、その場から立ち去った。その翌日から里奈の帰りの際には店長らが送り迎えをするようになり、芳田は接触するチャンスを失った。




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