26怖目 『座敷童子』


 祖父が子供の頃、近所に大きな屋敷があった。

 

 その家には、古くから『座敷童子』が住んでいると村で囁かれていたが、大人たちは皆、屋敷を恐れて近づこうとしなかった。


 だが、事情を知らない子供たちは、口を揃えてこう言った。 


 ――金持ちの家はうらやましい、と。


 ある日、村の悪ガキ数人が、その屋敷に忍び込んだ。


 夕方、彼らは興奮した様子で戻ってきて、祖父を含む子供たちに、武勇伝を語って聞かせた。


 「庭は広かったけど、草ぼうぼうで手入れされてなかった」


 「屋敷は誰もいないのに、人の気配だけするんだ」


 「中を歩いてたら、小さい子供が走り抜けた。でも追いかけてもいなくなった」


 そうして探索を続けたが、思っていたより大した発見もなく、退屈した子供たちは最後に――庭に落ちていた手頃な石を拾い、窓ガラスを割ったという。


その音を響かせ、笑いながら屋敷を後にした。


彼らはその話を得意げに語った。


 だが、それを聞いた村の大人たちは鬼のような形相で怒鳴り、親たちは子供を殴りつけた。


 理由を聞いても、誰も答えなかった。


 ――そして次の日から、異変が始まった。


 屋敷に入った子供たちは、全員死んだ。


 一人目は、その晩から原因不明の高熱にうなされ、夜明けとともに泡を吹いて絶命した。


 二人目は、眠っていた家が突然崩れ落ち、押し潰されて死んだ。


 三人目――石を投げた子は、夕方、水の張った田んぼに頭を突っ込んだまま沈んでいた。


 引き揚げられたその体には、全身に無数の痣があった。まるで小石を叩きつけられたように。


 

 祖父は語った。


 「あの屋敷にいたのは、『座敷童子』なんてものじゃない、あれは、何かの『憑き物』だ」


 村の人間は誰も近づかなかった――機嫌を損ねれば、“仕返し”が来るから。


 その屋敷は今、朽ち果て、瓦礫の山になっている。


 だが、誰も片づけようとしない。土地に足を踏み入れる者さえいない。


 今もアイツだけが住んでいるかもしれないから。

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