21怖目 『いつになったら』

 

 月曜日の昼過ぎ。


 悪臭にもすっかり慣れてしまった、散らかり放題の自室で、いつものようにスマホをいじっていた。

 

 SNSに投稿された文字の羅列を、何も考えずにぼーっと眺めながら、ただひたすらスクロールを続けていた。


 ――コン、コン。


 部屋のドアがノックされた。


 「……ケンジ、いつになったら片付けるんだい?」


 母親の声だった。


 「……チッ」


 舌打ちをすると、寝返りを打ち、部屋の反対側へと体を向けた。


 そのままパソコンの前に座り、暇つぶしにネットサーフィンをしていると、またノックの音が響いた。


 ――コン、コン、コン。


 「……ケンジ。ケンジや。いつになったら片付けるんだい?」


 「うるさい!」


 振り返りもせず、ドアの向こうに怒鳴りつける。


 やがて夕方。ようやくモニターから目を離した。


 「……腹減ったな」


 重たい体を引きずるように起こし、今日初めて部屋の外に出た。廊下には、ツンと鼻を突くような臭いが漂っている。


 台所に向かい、冷蔵庫を開ける。だが、中には何も残っていなかった。


 コンビニにでも行こうか……と思ったが、先週パチンコで全て使い切っており、財布は空だった。


 「……次の年金が出るまで、保つかなぁ」


 ぼさぼさの頭をボリボリとかきながら、再び自室に戻ろうと廊下に出た、その時――


 「……ケンジ。ケンジ」


 母親の部屋から、かすれた声が聞こえた。


 その声に、苛立ちがこみ上げる。


 「うるっせえんだよ、クソばばあ!!」


 怒鳴りながら、母の部屋を乱暴に開け放った。

 むわっ、とした匂いが、部屋の中から廊下にまであふれ出す。


 奥の布団には、すっかり変わり果てた母親の姿があった。


 「……ケンジ、ケンジ。いつになったら、私の体を片付けてくれるんだい?」

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