ちょびっとホラー ―ちょっとしたゾクリ―

ノゾミイサム

1怖目 『運命の赤い糸』


 違和感に気付き、自分の手を見ると、左手の小指に赤い糸が一本、巻き付いていた。


 それは、たまたま絡み付いたゴミとは思えないほど、丁寧に、外れないように結びつけられていた。


 思わず見入っていたが、ふと視線をずらすと、その糸はかなり長く、遠くに続いていることがわかった。


 私はその糸を辿った。自分の部屋を出て、廊下を渡り、階段から下の階へ。そして靴を履くと、玄関を開けて家を出た。


 糸は続く。糸はどこまでも続く。私は道を歩き、家々をすり抜け、近侍の公園を横切った。


 ――ああ、そうだ。ここは彼とデートの時によく来ていた場所だったな。


 私は彼との思い出を振り返る。


 楽しかった日々。喧嘩した夜。くだらないことで笑い合ったあの瞬間。


 全てが彼との愛おしく、かけがえのない大切な思い出だった。


 私達は、それらを全て一緒に共有し合ってきた。


 私は小指の赤い糸を改めて見つめる。


 ――運命の赤い糸……か。


 赤い糸の続く先。それは、目の前を流れる川の中に続いていた。


 川の色はどんよりと茶色く濁っており、糸の先は見ることはできない。


 ――冷たかったろうな。苦しかったろうな。


 私は糸を辿って歩き出した。


 一歩。また一歩と。


 ついに足は冷たい川の中に踏み入れ、気持ち悪く濁る汚水が靴の中に侵入し、靴下にぐにゅりと染み渡った。


 一歩。また一歩。


 汚水は臀部を包み、腰へ。背中へ。胸へ。首筋へ。そして、顎、口、鼻へと忍び込む。


 ――待っててね。あなたの苦しみも辛さも。全部共有してあげるからね。


 

 私達は、運命の赤い糸で繋がってるんだから。


 

 

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