第8話:今日の私と、放課後の階段

「最後のページまで読んだら、

全部、ひっくり返された気がした」


私は秋月遥。高校二年。

生徒会長で、成績も上位。

“ちゃんとしてる人”って呼ばれることに、

慣れてたし、そうでなきゃいけないと思ってた。


放課後。会議室に忘れ物を取りに戻った。

誰かがひとり、階段の陰で本を読んでいた。


男子。後輩。たぶん、図書委員。


すれ違いざま、視界の端に見えた。

本のページ。そこに書かれた一文。


『きみの手に触れた夜から、

 もう、世界が変わってしまった』


……なんだか、すごくやさしい言葉だった。


その夜。何気なく検索した。

“静かなBL 小説 文学的 泣ける”


出てきたタイトルの中に、

あの一文が載っていた本を見つけた。


……読むつもりは、なかったはず。


でも気づいたら、ポチッとしていた。


数日後、本が届いた。

きれいな装丁。落ち着いた色。

まるで詩集のようだった。


読みはじめると、

ふたりの心が、言葉にならないまま

少しずつすれ違って、

それでも、静かに惹かれていく。


抱きしめるでもなく、名前を呼ぶでもなく。

ただ、ひとつの手紙が最後に届く。


その手紙を読み終えたとき、

涙が止まらなくなった。


きれいだった。

でも、苦しかった。

それでも、あたたかかった。


完璧じゃなくても、生きていていいと、

やっと、誰かに言ってもらえた気がした。


深夜、スマホで、そっとつぶやいた。


@haru\_kaicho · 2分前

ふたりの言葉が、

心のいちばん深い場所に届いた気がした

静かな愛って、こんなにも強いんだね

\#初BL #静けさの中の強さ #ごちそうさまでした🙏


🔁 42件 💬 19件 ❤️ 108件


▶︎ @silent\_book

その本、人生の宝物になったやつ😭


▶︎ @hon\_no\_kimochi

感情を丁寧に置いていく系…しんどいね


▶︎ @kaicho推し

強くてやさしいの、ほんまに刺さる


本を閉じたあと、

私は制服の襟を少しだけ緩めた。

息が、楽になった気がした。


次回予告

第9話:今日の私と、秘密のノート


「うち、絶対に知られたらアカンのに…

このBL、ノートに写してしもたんや……!」


関西弁女子の“ツン”と“オタク魂”が爆発!

BLノート=バレたら終わり!? の攻防戦!

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