「そんな破廉恥な本、執事の読むものじゃなくてよ！」

私の名前は白川玲奈。

中高一貫のお嬢様学校に通っている。

母は茶道家元、父は財界人。

完璧でいなければ、という空気に

ずっと、なじんできた。

でも、今夜——その空気が、ふっと揺れた。

きっかけは、家の書庫。

書類を届けに入ったとき、

専属執事・佐伯が、読書をしていた。

分厚い文庫本。見たことのない装丁。

ふと背表紙が目に入った。

“君の執事は、まだ愛を知らない”

……え？

佐伯はあわてて本を閉じた。

「申し訳ありません、私用のもので」

その時、胸の奥がざわついた。

好奇心？ 不快感？ わからない。

でも、その夜。

私は検索していた。

──“執事×主従 BL 小説”──

なにこれ。なんなの。なぜ泣いてるの。

わけがわからない。

でも、レビューを読み進めた指は、止まらなかった。

──ポチ。

購入完了の画面を、しばらく見つめていた。

翌日。誰にも言えず、校内の控え室でこっそり読む。

執事は、主人を見守るように恋をしていた。

その手が決して届かないことも、

笑顔の裏に隠していた。

私はページをめくるたび、

涙をこらえるのに必死だった。

「……っ、ずるい……」

感情が、堰を切った。

気づけば、袖でそっと目を押さえていた。

その日の夜、震える指でSNSを開く。

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@reina\_shrk · 5分前

はじめて読んだBLが、執事×主従でした☕

想像の何倍も、せつなくて、

気づいたら泣いてました…ごちそうさまです🙏

\#初ポチBL #主従沼 #泣かされました

🔁 54件　💬 28件　❤️ 140件

▶︎ @ojobl\_diary

その執事、優しさの暴力すぎて泣いた😭

▶︎ @hakuchumu\_fan

わたしもその作品で目覚めました🙏✨

▶︎ @shitsuji\_is\_god

執事は恋しても執事…それが最高☕🍽️

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完璧じゃない自分を、

ほんの少しだけ、許せた気がした。

この世界、私が知らなかった

やさしさで満ちていた。

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次回予告

第6話：今日の私と、知らなかった世界

「なんで涙出てんの、私……男同士なのに……」

“恋バナとか興味ない”はずだった女子が、

偶然出会ったBL動画から、まさかの初ポチ。

心が動いた理由——それは。