第26話 アカウント
今から、約一年前『ミズメ』という名前のアカウントが、そのつぶやき投稿SNSに現れた。どんな人でも、アカウントさえとれば、インターネット上で、全世界へ向けて、発言できる仕組みのやつである。
そのアカウント『ミズメ』だが、毎回とてつもなく過激な発言を投稿していた。それも、あらゆるカルチャー、政治、個人、その他へ。投稿の数もペースも多い。
いっぽうで、誰かの発言にコメントは一切しない。
そして、アカウント『ミズメ』のつぶやき投稿には、非難、誹謗中傷、罵詈雑言と、すさまじいコメントが寄せられた。それでも、アカウント『ミズメ』は、手をゆるめない、どんどん、世界を敵へ回すつぶやきを投稿し続けた。
すぐに殺害予告も届くようになる。遠回しな内容の殺害予告、具体的な内容の殺害予告、どちらも届く。
しかし、それでもアカウント『ミズメ』はやめない。人類の敵になることに、何も感じていないように、攻撃的なつぶやきをしてゆく。
殺害予告の返しも、増加の一途だった。世界中から短い文章で殺意を示される。
だが、じつのところ、アカウント『ミズメ』の発言は、過激ではあるが、ある側面では、きわめて優れているといえた。文章が巧妙だった。
SNSには、それぞれ差異はあれ、安全装置的に、まずい利用者を、システム運用者側が停止する権限が出来る、なにが違反になるのか、規則も提示されている。しかし、アカウント『ミズメ』は、この規則に違反しないような巧妙な言葉運びでつぶやいている。発言を目にした側、読んだ側の不愉快さ、怒りを誘発させるが、発言の文章自体は、規約に違反していない。
爆弾は送っていないが、相手の中の爆弾を、相手が自ら爆発させるようなやり方。
と、説明された。実際、それがどんな文章だったのかは、その動画では解説されなかった。そちらはそちらで、別の解説動画があるという。
重要なのはアカウント『ミズメ』は、SNSの利用をシステム管理者から、一方的に停止されるような利用はしていないということだった。
だから、アカウント『ミズメ』は使い方を違反しているので、アカウントを停止すべきだと、他のユーザがいくら運営にうったえても、現状の規則をやぶっていないので、止めることは出来ない。
そして、アカウント『ミズメ』側の方は、返される悪意のメッセージに対して、何も返さない。誰からのコメントも許可し、直接のメッセージ送信も許可している。
それが三十日ほど続いた。もはや、アカウント『ミズメ』には、世界中に敵がいる状態だった。殺害予告の数は三千件以上を越えていた。
ここからだった。
アカウント『ミズメ』が、一挙に、殺害予告を送って来たい相手を訴えた。それも、三千件以上の殺害予告に対し、正式な手続きを行い、賠償金をもとめるカタチで。
動画で説明していたものの、やはり、わたしには、専門的な言葉はわからないので、おおざっぱに言うと、つまり。
アカウント『ミズメ』は、殺害予告のメッセージから、証拠を集め、しかるべき法的手続きを完了させ、賠償金を求める訴えを起こす。
ということをすべて自動的に行う、システムを完成させ、実行したという。
オート訴訟システム、とでもいうべきか。
この三十日で、殺害予告をした相手へ、おそらく、ボタンひとつで、三千件以上の訴えを同時に起こした。あくまで、正式に。殺害予告は世界中から来ていたので、その書き込んだ相手の国の法律的な手続きに合わせて、訴えた。
訴えた者は、もし、無視すれば、法的な手続きをとられることになる。
騒ぎにはなったらしい。しかし、訴えられた側の者たちは、殺害予告をするような者たちだった、表に立って、抗議する者はいなかった。下手に、また何かを書き込めば、訴訟される可能性がある。慌ててアカウントを消したり、コメントを消した者もいたが、すべては無駄だった。
アカウント『ミズメ』は逃げることが出来ない仕組みを利用した。
殺害予告をした者への訴え。
これが第一弾だった。
つぎに、誹謗中傷をした者を訴えた。殺害予告をした者より、遥かに数が多い。
そのつぎは、アカウント『ミズメ』の名誉を損なう情報を拡散した者たちを訴えた。
証拠集めから、訴えまで、すべて自動で、瞬時にやったと予想される。なにしろ、証拠はすべてネット上にあり、各手続きもネットで可能、そして、いまは一度でも、ネットを使用した者は、ネットから逃れることは難しい。どこかに必ず、痕跡が残っている、それは利用した者の意志にかかわらず、ネットには、痕跡が残る。
必ず、辿られてしまう。
膨大な訴訟。そして、結果的に、膨大な数の賠償金、および示談金が支払われることになる。
どういう仕組みで、そこまで出来るかも、もうわけないが、わたしには理解できていないが、とにかく、個々の賠償金は、示談金は少額であるものの、数が多い。合算され、とんでもない金額になっている。
はず。
と、その動画ではいっていた。きっちりとした金額までは、わかっていない、おおよその金額は提示してはいたが。
で、ミズメのスマートフォンで表示されていた銀行残高はというと、その予想金額を二桁うわまわっていた。
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