フレスベルグ(鳥)


「いったい何でまた……」


「数日前に砂浜に流れ着いてました。死にかけていたので、箱に入れて手当てしたのですが……元気になったら離れていただけなくて」


「それ、羽を広げたら五メートルくらいになるわよ」


「私の首が折れますね……」


「そうね」


 今は二十センチあるかないかだけれど。

 この魔物は地球の神話では巨人の名前だけれど、こっちでは飛行型の魔物だ。

 成体は巨大な鷲のような外見をしている。


「まあ、いいけど。ミシュティが飼うんでしょう?」


「そうなりますかね……なんだか申し訳ありません」


「いいのよ、放置しないでちゃんと飼うなら」


 ミシュティは家の裏手でコカトリスを飼育しているくらいだから、きっと小鳥が好きなんだろう。

 猫だから?

 ケット・シーは妖精だけど、猫の本能も持ち合わせているのかもしれない。


 (アレ、その場合は狩るのか。可愛がってるなら、猫っぽくはない……?)


「名前はどうしましょう」


「鑑定によると、オスね」


「フレスベルグというとフレスベルグ様が真っ先に思い出されますが」


「じゃあ、フレちゃん?」


 ミシュティはクスクスと笑い始めた。


「流石にそれは」


「フレスベルグが振り返っちゃうわね〜」


 結局、暫く考えたミシュティが雛につけた名前はカヌレちゃんであった。

 カヌレちゃんはどうでもよさそうに、ミシュティの耳の飾り毛を引っ張っている。

 ちぎれないのはミシュティが魔法で耳と毛を強化しているからだろう。

 猛禽タイプのくちばしをしたカヌレちゃんの攻撃は中々強そうである。


「あんまり言うことを聞かないとローストチキンにしますからね」


 キッチンに向かうミシュティの声が聞こえる。


 (フレスベルグって美味しいのかしら……)


 孤島と言っていいひよこ島に、なんでフレスベルグの雛が流れ着いたのか。

 まだ飛ぶような月齢でもない。

 あの魔物は頑丈なので、雛でもそう簡単に死ぬようなことはなさそうだ。

 数週間海で漂流していた可能性もあるけれど……。


「親鳥が来たら厄介ねえ」


 ひよこ島の障壁は、許可制。

 一定魔力以上の存在は、無許可であれば弾くようになっている。

 龍だけは突破して入ってきちゃうけれど。


 (親鳥が来ても入れない……でも、龍島の方に行かれたら被害が出そう)


 だが、数日経って親鳥の気配がないということはカヌレちゃんははぐれっ子か捨て子ね。

 特に問題はなさそうだ。


「図鑑では一回に複数個の産卵があるが、一匹しか育てないって書いてあるしね」


 雛から躾けておけば、他の子とも仲良くできるだろう。

 危険が及びそうなのは草食の魔馬たちだけだ。

 彼らには念のため、ガッチリと防御魔法を付与しておこう。

 後は龍とかヒドラだし。

 ディーもソフィーちゃんも心配ない。

 魔咆犬は成体になれば竜をも叩き落とすし、機動力もある。

 ソフィーちゃんは私が手を焼くくらい強いし。


「あれ? ひよこ島って普通の動物がいないんじゃ……」


 いや、魔咆犬は犬でいいよね。

 ソフィーちゃんも蛇だし。

 魔馬も馬だ。


「おかしいのはポチとビビちゃんとマカロンちゃんくらいよね……」


 古龍、屍龍、ヒドラは少し変わったペットかもしれない。


「もふもふ枠がディーしかいないじゃないの」


 普通、スローライフってふわふわの動物に囲まれるのが定石なのでは?

 フレスベルグの雛は、もふもふ枠に入れられるだろうか。


 (もふもふ……もふもふが足りないのか)


 でも流石にこれ以上は増やせない。

 ミシュティがいるとはいえ、飼育崩壊一歩手前な気がする。


「あ、でも……お世話が必要なのって、ディーだけね」


 魔馬たちも走らせれば洗わなきゃいけないけれど、基本島内で草を食べてるし、マカロンちゃんは果樹園から勝手に食べてるし。

 ポチとビビちゃんは、生きる為に食物を必要としていないし。

 ソフィーちゃんも勝手に金蛇の実を食べに行ってるし。

 私は足元でのたうち回るディーを見下ろした。


「手がかかるのはあなただけよ、かわいこちゃん」


 ディーはお腹を見せ、身をよじった。


「はいはい、わかったわかった……」


 食後、床に降ろされたカヌレちゃんはディーと同じご飯をもらい、犬の通用口から一緒に出て行った。


「仲良し……?」


「はい、もう勝負がついています。カヌレちゃんは雛ですし、ディーさんの圧倒的勝利です」


 窓の外をみると、カヌレちゃんはディーの後を舎弟のようについて歩いている。


 (鳥! 飛びなさいよ……)


 

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