第43話 墓に巣食うリンダヴルム 中編
リンドヴルムが気づいていない内に奇襲すると決めた二人の行動は早かった。魔法を
詠唱すると声で気づかれてしまう為、ティッタはカバンから火を司る魔法円の書かれた羊皮紙を静かに取り出しリンドヴルムに向けた。魔法円が青白い光で輝いて地下墓地の中を照らした。直後に魔法円から炎が勢い良く放たれリンドヴルムの皮膚に当たった。
ヴァルターであるなら料理の為の中火を10分維持するだけで精一杯だった。それだけ難しい魔法をティッタは武器に出来る位に扱えたのだ。ヴァルターは己の師匠が自分の味方なのを心から感謝した。ティッタが炎の魔法を出し終えるとヴァルターは竜めがけて矢を2本放った。矢先がブスリと皮膚に食い込む音がした。
リンドヴルムはティッタから受けた炎で鱗が焼かれた鉄の様に赤く光っており、その赤くなった鱗がぽろぽろと落ちていった。熱で硬かった皮膚は柔らかくなっておりヴァルターの矢も刺さるくらいには脆くなっていた。
しかしリンドヴルムはそれでも怯まなかった。炎と矢の攻撃を受けたリンドヴルムは二人の方へ首を向けると忌々しそうに細いしたをシュルシュルと音を立てながら出す。
「矢が通じる位に皮膚は脆くなったがやはり腐っても竜、肉は分厚いのう。」
「関心してる場合じゃねぇ、ティッタ!竜の攻撃が始まるそ!」
リンドヴルムがいったん屈むと突如二人めがけて4本足で猛スピードで一直線に突進してくる。それに気づいた二人は咄嗟の判断でそれぞれ左右に分かれてリンドヴルムの突進をかわすがリンドヴルムは墓地の壁にぶつかる前に急停止し右に逃げたヴァルターの方へ鋭い牙の生えた口を開けながら向いた。ヴァルターとリンドヴルムとの間には距離があったが、リンドヴルムは長い首を素早く突き出してヴァルターを食い殺そうとしていた。竜の攻撃を右へ左へかわす度にヴァルターは構えていた槍を竜の首めがけて突き刺していった。ティッタの炎魔法で竜の皮膚は弱まったが致命傷を与えるには肉が分厚かった。攻撃をかわして移動するのに精一杯でヴァルターは墓地の壁の角と背中合わせになってしまった事に気づいた。左右のどちらにも逃げ場がなくなった。そのチャンスを狙って再びリンドヴルムがその大きな口を開けて長い首をヴァルターめがけて突き出した。
「ヴァルター!!」
ヴァルターを案じたティッタの叫び声が、リンドヴルムの唸り声と共に墓地内に響いた。
「くそ!師匠、助けてくれ!」
ヴァルターは生きていた。リンドヴルムが首を突き出す直前に構えていた槍の柄を両手で横に持ち、やってきた竜にその柄を咥えさせる事でどうにかリンドヴルムの餌食にならずに済んだ。間一髪だった。
しかし長くは持ちそうに無かった。リンドヴルムには力で押されそうになっており、槍の柄は硬い良い木材で出来ているとはいえ竜の歯がそれをかみ砕いてしまうのは時間の問題だった。ヴァルターが持ち堪えている間に風のひゅうひゅうと鳴る音が竜の後ろから聞こえた。
「Aer calens turbo sit et inimicum dilaniet!(熱をまとった空気よ、つむじ風となりて我が的を切り裂け!)」
ティッタが先ほど炎の魔法を使った事で墓地内の温度は上がっていた。条件が整った事でティッタは詠唱で人工的につむじ風を発生させて図体の大きいリンドヴルムめがけてかまいたちを放ったのだ。火で弱まった竜の皮膚には効果があり、かまいたちを受けた箇所が大きく切り裂かれ傷口から血があふれ出ていた。
ティッタの風の魔法攻撃を受けて怯んだ竜は一時的にヴァルターを押し込む力が弱くなった。そのスキを見逃さなかったヴァルターは腰に刺していた短剣を鞘から抜いて竜の右目目がけて突き刺した。竜が右目を潰された痛みに耐え切れず大きな唸り声を上げてとうとう槍の柄をかみ砕いてしまった。しかし竜の左側へと逃げられたヴァルターはかみ砕かれてしまった槍のまだ完全に残っていた穂をナイフ代わりに今度は竜の左目へと突き刺した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます