第33話 エルフの魔女 ティッタ 前編

ヴァルターが物心ついた頃からエルフのティッタは常に近くにいた。自分が生まれた瞬間にも立ち会ったそうだがヴァルターが最初に彼女とあったのは6歳の時、祖父クラウスと父ヴォルフラムと共に実家から少し離れた石を積んで出来た小さな小屋に挨拶をしにいった時だった。小屋から出てきたのは古そうな杖を手に持ちながらつば広帽をかけた5フィート近い(140cm)背丈の10歳位の見た目の女の子でエルフ特有の尖った長い耳がヴァルターには印象的だった。祖父いわく彼女はヴルムドルフ家が作られる前から魔法使いとして仕えており食客として彼女をこの土地に住まわせており困った時には必ず助けてくれるという。実際魔法を教えて欲しいと頼んだら魔法の基本を教えてくれたし。母が熱にかかった時も薬を渡して回復させてくれた事もあり、水車小屋を立てる手伝いもして村人から現人神と呼ばれてちょっとした騒ぎになった事もある。

今度も彼女は助けてくれるだろうか?

そんな淡い期待を抱きながらヴァルターはティッタを昼食に招いた。今日は人参とブロッコリーの素揚げに加えてティッタの好きな豚肉のカツレツだったが珍しく食指が進んでいない。原因は昼食前に父ヴォルフラムが死んだ事を彼女に伝えたからだろう。ヴァルターと違いヴォルフラムは魔法を変なものとして彼女から勉強しようとはしなかった為、決して仲は良くなかった。ただ一家の掟として面倒をみて貰えたので感謝の情はもっていた。


「ヴォルフラムの坊やがヴァルハラに召されるとは・・・。あやつは昔から頑固じゃったのう。魔法なんておかしなもの学んでいる暇はないとぬかしおった。」


「父さんは剣と槍の道をひたすら走っていたからな。弓を使う事も士道に反するとして嫌っていたな。」


「そうじゃったのう。あの坊やは昔からそれくらい頑固じゃったわい。」


ヴァルターが会話を弾ませたからかティッタが少し嬉しそうに笑みを浮かべながらナイフで切ったカツレツの切れ端を口へと運んだ。


「あやつが騎士になりたてで戦場にいった時に矢に刺されて大けがになったと聞いて慌てて戦場まで行ってやつのケガを直すはめになった。」


「ティッタ様、その事はよく覚えています。私が夫と婚約者になった頃の話でしたから私は大慌てでヴルムドルフの村にまでいってティッタ様に後に夫になる人を助けてくださいって嘆願しました。ティッタ様のおかげで夫は助かって子宝にも恵まれました。」


「あはは!その後も大変じゃったぞ!次にあやつ腹に切り傷を負ったからまた戦地に遠出をするはめになったわ。あの時はヴァルターもまだ5歳だったから本当にハラハラしたぞ!」


「いつも・・・いつもティッタ様には大変お世話になりました。あの方の妻としてお礼申し上げます・・・」

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