第22話 グリュンブルク城への帰還

夜が明けるとヴァルター達4人の従騎士は親拘束それながら各々の愛馬に乗せられ魔族の親衛隊の兵士達に護送されながらグリュンブルク城へと移動していた。ハインリヒ、ヘルムートとディートリッヒ達は昨日生贄にされたヴォルフラムの事を考えると暗い顔になっていた。ヴァルターは昨夜散々泣き叫んだ後一度も眠れず疲れ果てた状態で愛馬グラニに乗っていた。顔は生気を失っており今にも死にそうな感じだった。

そんな4人の事など気にせず護送していた親衛隊の騎兵が声をかけた。


「おいちびっこ共、お前達の城が見えて来たぞ!大将軍閣下のご慈悲に感謝しろよ!」


ヴァルターはそう話した親衛隊の騎兵に顔を向けると僅かに睨んだ。気力の無い睨みにその騎兵はふんと鼻をならしながら無視した。

グリュンブルク城の方から喧噪が聞こえる。魔族の騎兵に気づき、見張り台と城壁の方を見ていると弓を構えている兵士達がならんでいた。しかし今から戦闘をする雰囲気ではない。ヴァルター達を護送していたのが見えたのと親衛隊の騎兵が武器を構えず軍使を表す白旗を掲げていたからであった。

城門の上からプレートアーマーの甲冑姿のルートヴィヒ大公が見えた。それに対して軍使を務めるオークの騎兵が二足竜に乗りながらルートヴィヒ大公に叫んだ。


「ここより北方を治める魔族帝国の親衛隊のゴウラと申す。昨晩愚かにも我らの陣営に忍び込んだ若者達を捕虜とした。」


「貴様らの目的はなんだ!捕虜となった従騎士達の身代金か!」


ルートヴィヒ大公が軍使のオークに問うた。「否!」とそのオークは否定した。


「お前たちの旗騎士ヴルムドルフのヴォルフラムを我らの神の生贄に捧げる事を条件にこやつらを愛馬と共に解放する事とした。お前たちの英雄はこやつらの代わりに死んだのだ!」


城の方がヴォルフラムの死を聞いて騒ぎ出す。士気をくじく効果はあったと軍使のオークのゴウラはにやついた。ルートヴィヒ大公は何も言えず苦虫を嚙み潰したような顔で軍使のオークを睨みつけた。軍使のゴウラは続けた。


「小童どもの剣と拍車は戦利品代わりに頂いた!こいつらは愛馬と共に釈放だ!さあとっとお家に帰るんだな!」


護送していた親衛隊の兵士に突かれてヴァルター達は各々の愛馬に乗りながらグリュンブルク城へと近づいていった。それを見てかグリュンブルク城の正門を守る落とし格子がギシギシと音をたてながら上げられた。開けられた正門へと入る中、ヴァルターが後ろを振り向くと親衛隊の魔族達は勝ち誇った様に声をあげ踵を返して去って言った。

城の兵士、修行していた小姓達、駐屯していた兵士達、城の中には4人の従騎士達を見に来た者たちが大勢いた。


ヴァルター達が馬から降りて両手を縛っていた縄をほどいていると野次馬の群衆の中から「どけどけ!」と言いながらずかずかと髭を蓄えたドワーフがヴァルターの前にやって来た。大公ルートヴィヒの家を補佐する執事のクルトその人だった。

ドワーフで背の低いクルトはヴァルターを見上げていた。その目には怒りの感情がこもっていた。

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