第12話 敵要塞への潜入

見張り台で辺りを見回して警備していたキャズという名のゴブリンの兵士は不満であった。何せ今回勝利した戦で捕まえた捕虜を今回駆けつけたオークの黒の大将軍が何人か神への生贄にすると決めたのだ。異教徒な上に非力な人間種の捕虜を生贄にして髑髏杯にするという一大イベントのタイミングで周辺の見張りの役目を隊長から言い渡されたのだ。溜息をつきながらゴガは周囲を見回していた。台地の周りはもっと多くの木に覆われていたが、要塞を築くためと要塞の周辺に敵兵士に隠れる場所を与えない為に多くを切り落としたのだ。よってキャズが見張っていたのは残された木々の方だった。彼がふと左の方を見ると何か動く影が見えた。この辺りには猪はいないし、狐やウサギにしては多すぎる。人間か、と考えている内に喉に強い衝撃が走った。喉に血があふれまともに息ができない。力をふり絞って首の辺りを触ろうとすると矢じりが喉を貫いた事に気づいた。喉をつぶされ味方に敵の襲撃を伝える事も出来ぬままキャズは見張り台で力を失い倒れた。


従騎士のハインリヒは二つの意味で騎士道には遠い少年と言えた。年頃の彼も男女の関係に興味を持つため美少女や美女を見つけ次第先祖のエルフ譲りの端正な顔つきと特徴的な尖った耳に得意の詩を歌い彼女達を魅了させる事にいそしんでいる為肝心の剣の修行はさぼり気味である事。もう一つは騎士を目指すものにしては珍しく弓の鍛錬には真面目に勤しんでいる事だった。普通の騎士なら弓やクロスボウの様な飛び道具など卑怯で士道に反すると一般の弓兵まかせっきりにするが帝国に従軍した著名な弓騎兵のエルフの祖父を誇りにしていたハインリヒは自分も弓を引くぞと意気込み鍛錬を続けていた。ヴァルターの父を救出する危険な冒険に出た彼は迷うことなく自身の短弓と矢をもって出撃した。敵の要塞の偵察を一通り終えたヘルムートから一番近くの壁から上るからその辺りの見張り台に一人で突っ立っている見張りを始末してくれと頼まれハインリヒは引き受けた。短弓を手にした彼はギリギリ近くの林から構え、見張り台の高さと吹いている風の勢いを頭の中で計算して矢を放った。ハインリヒにとっての初めての殺しはあっけないものだった。


「小鬼野郎に一発で当たったぜ。敵に気づかれる前に急ごう。」


ハインリヒがそう言うと4人は一斉に林から要塞の築かれた台地までを走った。魔族達も急ごしらえの要塞を作ったからなのか途中で罠らしいものもなく要塞の壁までたどりつく事が出来た。

ヴァルターが鞍から持ってきた攻城用の梯子を投げると先端のフックが壁に上手く引っかかった。成功を喜ぶ暇も惜しまず近接格闘を得意とするディートリッヒが先に登り下に危険がないかを確認した。


「下に敵はいない。みんないいぞ。」


ディートリッヒの合図で残りの3人が音を立てず慎重に縄の梯子を上っていって要塞の中へと降りて行った。見てみると幸いテントや即席の施設の配置で要塞の右奥の戦利品の集積所と思われる場所までは一直線でいけそうだった。


「みんな、ここは走らず慎重に行こう。」


ヴァルターが小声でそういうとハインリヒ、ヘルムート、ディートリッヒの3人は何も言わず頷いた。

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