甲鉄のヴァルター 成り上がり騎士の冒険譚

生値命

第1話 叙任式

 前線の城で叙任式が行われた。謁見の間で大勢の騎士仲間や宮廷の役人と侍女達が正装に身を包み込んで参列した儀式は、修行を行う小姓と戦う騎士の中間だった従騎士を正式な騎士へと昇格させる神聖なものだ。

 これから騎士になるのは本来20人のこれまで従騎士だった少年達。彼らは風呂に入る事でこれまでの汚れを洗い落とした儀式を終え、皆白いチュニックを着て白いズボンを履いていた。彼等は皆最後の一人が来ないかと期待していたが定刻になっても来ないので大公家の執事が溜息をついて叙任式の開始を宣言した。

 謁見の間で玉座に座っていた豪華な刺繍の衣を纏った大公が立ち上がり少年たちの名を呼ぶ。

 呼ばれた少年が返事をして列から離れると大公に近づき跪いて臣下の礼をする。大公は叙勲用の豪華な装飾の剣を持っていた侍従から取り、鞘から剣を引き抜くと跪いた少年に騎士としての宣誓を誓わせた後、叙勲用の剣でゆっくりと跪いた少年の両肩を剣の刃の側面でポンと叩き少年を立たせた後に馬を操る為の金メッキの拍車を渡し、その少年は喝采の中晴れて正式な騎士となった。少年達に一人づつこの神聖な儀式を行い、就任前の少年達の列が無くなりいよいよ終わろうとしていた時、謁見の間の入口の扉がバンと勢い良く開いた。

ボロボロの鞘を手に持った栗色の少年が今まで走ってきたのか息を切らしていた。


「ヴァルターよ、遅いではないか!叙任式が終わる所だぞ。」


大公の執事のドワーフが謁見の間に現れた少年ヴァルターをたしなめた。


「クルト様、申し訳ありません。騎士に必要な剣を実家から取りに行った為、遅くなりました。」


息を少しづつ整えながらヴァルターがクルトと呼ばれた執事に事情を説明した。執事のクルトはしかめっ面のまま彼を見ていた。


「まぁ良い、最後はお前の番だ。殿下に粗相の無いようにな。」


「はい!」


 クルトにそう言われるとヴァルターはボロボロの鞘に包まれた剣を腰のベルトにかけて大公の前へと進んでいきゆっくりと跪いた。ヴァルターの突然の登場に大公は驚きながらもほっとした顔で叙任用の剣を掲げた儀式の言葉を口に出した。


「ヴォルフラムの子、ヴァルターよ。汝、神々に誓って帝国の一部である大公国の大公たる私に忠誠を誓い、貧しき者、弱き者、女子供を異端と魔族から汝の持つ全ての力を持って守り戦うと誓うか。」


「誓います」


 ヴァルターが誓うと大公が剣の刃の側面で彼のーの両肩を優しく叩き、ヴァルターが立ち上がった。大公がヴァルターに優しい笑顔を向けた。


「おめでとう、ヴァルター。これでそなたも晴れて一人前の騎士だ。天に召された父君も君を誇りに思うだろう。」

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