幽恋の架け橋
翌日になり馬車の中で昨日の女子会での話題、
そして夢の内容を思い返す。
夢で見た光景が真実なのだとしたら、
彼女の一家は滅亡してしまう。
そして自分に備わった能力についても確信があった。
私の身体に霊が憑依し、
異能(おそらく透視のようなもの)が備わったのだ。
やはり、ロゼリアは私が救わないといけない。
----例え
前世の私は常に隅で傍観しているだけだった。
でももうそんな自分は見たくない。
想像を膨らませているうちに学院の門まで到着していた。
アリシアとユグナに挨拶すると
「昨日はありがとう」と言ってくれた。
教室に入ると、ロゼリアは
勝ち誇ったような視線を向けてくる。
昼休みに
教室に戻る途中、ロゼリアが強引に王太子に腕を絡ませ近づいてきた。
ショックだったがエドアルド王太子は嫌がる素振りを
見せていたのでそれが唯一の救いだった。
「あら、マリーネじゃない? お友達とお弁当楽しそうね」
「ええ、おかげさまで。ロゼリア、今日放課後話したいことがあるの」
「フッ、負け惜しみかしら。いいわよ、聞いてあげるわ」
放課後ロゼリアのとりまきたちと、
アリシア、ユグナ、そして私は教室に集まった。
がらんとした教室には、張り詰めた空気が漂っていた。
ロゼリアの取り巻きたちは教壇側に陣取り、
見下ろすような視線を向けている。
ロゼリアは机の上に腰かけ、足を組んでいた。
その横には、あの不気味なフランス人形を
ぶら下げた鞄が無造作に置かれていた。
アリシアとユグナは私の隣で静かに様子をうかがっている。
私は一歩、前に出た。
「その人形……見覚えがあるわ」
ロゼリアの目が細められる。
「前の世界で、その人形がきっかけで一家が壊れたの。
私が最後に見たのは、「ベラローセ館」だった。
あの夜、あの人形からただならぬ
「またあなたの作り話?王太子様を取られて気が狂ったのかしら?」
「そう思うのも無理はないわ。でも今から話す内容が真実ならどうかしら」
皮肉っぽく笑いながらも、声に僅かな揺らぎがある。
ロゼリアは片手で髪を払い、机から降りて腰に手を当てた。
「お父様、最近誰かと頻繁に手紙を交わしているわね。
しかも“フローラ”って女性と」
ロゼリアの取り巻きの生徒は、
片手を口に当て、驚きと軽蔑の笑みを浮かべる。
それを見てロゼリアの笑みが凍った。
「くっ——なぜ、その名前を知ってるの?
あなたの目的は・・何?」
沈黙が落ちた。
窓の外から夕陽が差し込み、教室の空気を濃く染めている。
ロゼリアはゆっくりと視線を落とし、唇を噛んだ。
「私はあなたを助けたいのよ。
このままだとあなたのお父様は心中してしまうわ。
……見たの。あなたの父が愛人のフローラに宛てて書いた手紙。
『君がいない世界になど未練はない』って
……あんな言葉、娘の前で書けるものじゃないわ」
そのとき、突然ロゼリアが机から立ち上がった。
怒りに火がついたような鋭い声が教室に響く。
「やめなさいよ! 偉そうに、正しいふりして!
お姫様ぶって、哀れな人に手を差し伸べて……!
そんなの、全部偽善じゃない!!」
その目は真っ赤に染まり、涙で潤んでいた。
胸の内に押し込めていたものが、
ようやく言葉になって吹き出したのだろう。
暫く沈黙が流れた。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「私は……ずっと見下されてたのよ。異母の妹だって知ったときから、
あの家では私はゴミ同然だった。
お姉様の使い古した服を着て、お仕えの者には名前すら呼ばれなかった!
笑っても、褒められたことなんてなかった……!」
誰もが言葉を失った。
心臓がきゅっと締めつけられる。彼女の声は、何かを揺さぶった。
「……ロゼリア」
私はそっと彼女に歩み寄る。
手を伸ばしかけて、躊躇い、それでも勇気を振り絞って言った。
「私はあなたを哀れだなんて思っていないわ。
ただ、誰かを傷つけることで、自分の痛みをごまかすのは、
もっと悲しいことだと思うの」
ロゼリアは睨むようにこちらを見ていたが、
その表情は少しずつ崩れていく。
ユグナが小さく息を吐いた。
「……瘴気って、感情の渦に引き寄せられるのよ。
怒りも、憎しみも。でも、悲しみと共にある優しさは、
それを鎮めることもできる」
アリシアがそっと寄り添い、ロゼリアの背に手を添える。
「もう、無理しなくていいの。ね?」
ロゼリアは声にならないまま、鞄に下げた人形をぎゅっと抱きしめた。
ほんの一瞬、部屋の空気が揺らいだような気がしたが、
そのまま黒い霊気が立ち昇り、巨大な竜のようなモンスターが出現した。
すぐにアリシア、ユグナに声を掛ける。
「二人共、警戒して!」
二人は少し躊躇する間があったが
「は、はい!」
モンスターは四方八方に散らばり、襲い掛かる。
素早く詠唱を開始し、魔法を繰り出そうとするも、敵の方が一歩早い。
──術式完了。
「燃えあ・・!? うっ、キャー!」
ユグナも必死に対抗するも除けるのに精いっぱいだ。
「ユグナ、結界魔法を! いちばん強いやつを!」
マリーネの声に応え、ユグナは震える指先で魔法陣を展開した。
蒼白い光が空中に浮かび、半球状の結界が二人を包む。
「これで――っ!」
だが、次の瞬間、モンスターの尾が
結界は音を立てて砕け散った。
圧倒的な力――。
重く、冷たい空気が辺りを支配する。
「嘘……」
足がすくむ。
その隙を突くように、黒い霧が渦巻き、背後から迫る。
「後ろ、マリーネ様!」
ユグナが叫ぶが、反応が追いつかない。
視界が揺れ、耳鳴りがする。
アリシアが飛び込んできて剣を振るうも、
霧を裂けず、刃は空を切った。
「こ、こんなの……私、何もできないっ!」
混乱したアリシアが後退する中、意識が遠のいていく。
冷たい床に膝をつき、視界が暗転しかけたそのとき――
バンッ!
教室の扉が勢いよく開き、逆光の中に立つ人影が叫んだ。
「マリーネ、下がれ!」
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