最悪のネクロマンサーですが、本人は善人のつもりです。

妥当性

第1章

プロローグ

 あるところに、死に愛されている男がいた。男は、その手であたりに死を振りまき、アンデッドを生み出し続けていた。

 男は、最悪の死霊術師ネクロマンサーとして恐れられていた。



「くそッ。なんて酷いんだ。」


 ヴェルグレド・ヴェルキンスは戦場跡に立っていた。

 あたりに漂う腐敗臭に、血の匂い。何度戦場跡に立ってもこれには慣れない。


「う、うぅ…」


 足元でうめき声が聞こえる。


「!!生きている者がいるのか?これは僥倖。」


 ヴェルグレドは死体の山をかき分け目標を見つける。うめき声の主は、腕を切り落とされた青年のようだった。運よく死体で圧迫され出血が少なくて済んだのだろうが、それでも直に死ぬ。


 迷ったのは一瞬、ヴェルグレドは治療を行うことにした。


『死者よ、わが呼び声に応えよ。』


 ヴェルグレドがそう祈りながら、青年の胸にナイフを突き立てる。


「ゴプッ」


 青年の口から血が溢れるが、ヴェルグレドは気にせず詠唱を続ける。青年は絶命した。よかった、これなら何とか間に合いそうだ。

 詠唱を続けるうちに、周りの死体が青年に吸収されていき、傷が癒え、腕が生えてくる。

 そして、青年が息を吹き返した。いや、正確には、息はしていない。


 彼は、ゾンビとして甦ったのだ。


「あれ、俺、生きてる…?」


 青年が自分の腕を不思議そうに見つめている。


「いや、君は生きてはいないよ。」


 ヴェルグレドが青年に手を差し出す。青年は素直にその手を取り、立ち上がる。


「私が、君をアンデッドとしてよみがえらせたのさ。」


「え」


 青年が呆然としたようにヴェルグレドを見つめ、自分の腕に視線を移した。その間、ヴェルグレドはにこにこして青年の言葉を待っていた。


「………アンデッド…?」


「そうとも!私は死霊術師ネクロマンサーだからね。」


 ヴェルグレドがにこにこと答えた。

 青年はしばらく沈黙したまま、自分の体を見つめ――やがて震える声で言った。


「……そんなの、そんなの……そんなんだったら、死んだ方がマシだ!」


 青年が涙を流しながら、落ちていた剣を拾い、自らの脳天に突き立てた。


「なっ、やめるんだ!」


 ヴェルグレドが止めようとしたが、もう遅い。青年の頭は完全に貫かれた。どさっという音を立てて、青年が崩れ落ちる。


 そして、剣が頭に突き刺さったままの青年は、起き上がりうめき声を上げ始めた。


「ウ、ううぅぅ…ごガッ」


「はぁ、私も破壊された脳までは修復できないからね。でもまあ、それが君の選択だったということだ。」


 ヴェルグレドはため息を一つ吐き、詠唱した。


『我が僕よ、滅せよ。』


 すると、青年ゾンビが端から朽ちて灰になってゆく。



 ヴェルグレドは、その一部始終を残念そうに観察し、呟いた。


「死んだら、意味ないのに。」


 ゾンビが朽ち果てた灰の痕には、一本のペンダントが落ちていた。

 小さな、古びた、愛する者の肖像が収められたものだった。


 ヴェルグレドは、それを一瞥し、歩き出した。

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