@roro0815

第1話

「猫は、一生に一度だけ人間の言葉で話す」


そんな噂を、あるいは猫を飼っていたり猫好きの皆さんは耳にしたことがあることと思います。


喋る猫の、というか動物の動画なんてものは今の時代いくらでも溢れていて、調べれば調べた数だけ出てきます。


それは無理があるだろうというものから、なるほど確かに聞こえなくもないというものから、はたまたもうそうとしか聞こえないようなものまで様々で、前者はともかく、後者はもしかしたら最初に話した

「一生に一度の権利」

を使い、猫が人間に伝えたい事が込められているのかもしれません。


かくいう私も愛猫を二匹、飼っております。


白い雄猫と、白に少し茶色が混ざった雌猫。1歳違いの兄妹で、仲はあまり良くなく、正直私にもそれほど懐いていません。


それでも幼い頃に両親をなくし、親戚の家を転々としてきた私にとって、本当の意味で家族と言える存在はこの二匹だけであり、この子達こそが私の生きる意味とまで思っておりました。


ある日、ソファに寝っ転がってくつろいでいた私の胸部に、白い雄猫が乗っかって来ました。雌猫の方も顔の近くで覗き込むようにこっちに来て。


おっ珍しいこともあるもんだと思い、両手でそれぞれの顔に手を伸ばして軽く撫でてやると、全くなんの脈絡もなく

「お前のせいで、畜生に堕ちた」

と、低い男の声が聞こえてきました。


そのすぐ後に、恨めしそうなしゃがれた女の声で

「早く死ね」

とも。


部屋には私一人だし、壁はそこまで薄くないし、スマホもいじってない、テレビもついてない、窓も空いてない。何よりこの声は、私の記憶の中にいる両親の声そっくりでした。


あの恐ろしい声。

嫌がる私の首に縄をかけ、無理心中を図ったあの二人。

嫌だ嫌だと暴れる私の縄が解け、少し高い位置から床に落ち、痛みと苦しみと恐怖で二人を見上げた時のあの私を見下ろす二人の目。

「こっちにおいで」「一緒に死のう」そう言って事切れたあの二人の声。


嫌な記憶が蘇り、一瞬目を手で覆った。雄猫は胸部からサッと飛び降りた。

気のせいだ、何かを聞き間違えたんだと思い、落ち着いた所で身体を起こそうとする。

ふと猫のほうに目をやると、少し離れたところで二匹並んで座り、こちらを見ている。


「...お父さんと、お母さんなの?」


そんなわけが無い、そんなわけが無いだろう

だって、そんな事あっていいわけ無いのだから。余りにも、酷いじゃないか。


ただ私を見つめるその二人が小さく、同時にニャっと鳴き、私はもう自分が幸せになる事は無いのだろうと悟ったんです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

@roro0815

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ