5.ガレッダ・スープハウス開業

 ウッズさんの提案から1週間ほどが経過した。

 俺は今、テルリア王国の南の田舎都市セルノルにて、自分の店造りの為にせっせと作業中だ。

 白術学園のある北の都市ガダルシャから、遥々と南の田舎セルノルまでやってきた。

 北から南まで、獣車で2日かけてえっちらおっちらと移動して辿り着いたこの地。

 少し気温差があり暑く感じるが、それを帳消しにするものがあった。

 セルノルの景観に俺はもう既に虜になっていた。


 焦げ茶色、濃い白などの暖かな色味で組まれた木造の家は、窓の縁や家のドア周りに飾られた赤や白の綺麗な花でいっぱいだ。

 縦長の青い窓、素敵な三角の屋根が家の暖色とよくマッチしている。

 街角には色取り取りの花壇、頭が3つある金属でできたレトロな街灯。

 そんな街と調和する、少しくすんだ石造りの橋。

 橋の下には水路があり、水面には太陽の光と暖かな街の風景がキラキラと反射している。

 そんな南国チックな風景が続く静かな街セルノル。

 噂には聞いていたが、何とも風光明媚で心奪われる街だ。

 俺の生まれのミガルシャ村に負けず劣らずだな。


「こんな素敵な街で店を開けるとか、もう人生に悔いはない」

「ガレッダよ、君の人生はまだまだこれからだぞ!?」

「……ああ、そうでした。俺はこれから第2の人生を歩むんだ。この地で」


 そうだ、まだ悔いはある。

 あいつらに貶められたまま終わってたまるか。

 俺は必ず幸せになる。


「……ところで、ジムテスさん。ウッズさん。先程からどうしました? ずっと何かに驚いているようですが」

「そりゃ驚くよ……家をここまでピカピカに……あんたのその実力はなんなんだい……」

「1週間でここまでやってのけるとは……白術学園出席とはやはり恐ろしいな。想像以上の実力者のようだ」


 ジムテスさんとウッズさんは、俺が施した家の改造っぷりに驚いていた。

 

「はは。まあ、一応魔法には一家言ありますから。建築の知識とかインテリアとかはあんま詳しくないけど、魔法を使えば俺の得意分野です」


 俺がウッズさんに与えられた家は、セルノルの奥の方にある。

 家は一般的なセルノルの家より少し大きい。

 2階と屋根裏部屋で構成されている。

 しかし、大きいはいいもののしばらく触っていなかったのか、一般的なセルノルの家に見られる花の装飾や綺麗な窓、ドアなんかがない。

 せっかくならセルノルの家風の仕上がりにしたいと思い、大改造途中だ。

 セルノルの魔石店、木材店、宝石店、ガラス屋、花屋なんかで材料を買い漁り、自分好みの店に。


「構成としては、華はあるけど主張しすぎない、不思議な魔力を感じるスープハウスがいいんだよな」


 ひっそり、というのは既に達成できている。

 セルノルの奥の方にあるこの家は、家の奥に悠々と佇む緑の山・渓谷が見える。

 それらに見守られるようにしてひっそりと建つこの家は、不思議な魔力を感じるスープハウスと呼べるだろう。


 理想のスープハウスを造るために1週間でやったことと言えば、まず家を丸洗い。

 家の中の家具なんかは一旦全て移動させ、家の中から外まで、ホコリ1つないようピカピカに。

 水魔法で水はいくらでも無料、使い放題。

 体力はそこそこあるので、モップで1日中ひたすら家を洗ったり、汚れた窓を拭いたり。 

 そんな感じで、家をクリーンな状態に戻すのは1日で終えた。

 汚れ、ヒビなんかは魔法を使って気合で綺麗にした。

 そしてそれからは何をしていたかというと、インテリア雑貨の大量買いだ。

 インテリアにあれやこれやと悩んでいたら大分時間が経ってしまった。


「さーて、家はピカピカ、材料バッチリ。やっと家の本格的改造に取り掛かれる。楽しみだ」

「やっぱあんたは大物になるね……」


 ジムテスさんはボソッとそう呟く。

 それにうんうんと頷くウッズさん。

 ……なんか期待されてるな。

 この2人には色々やってもらったし、気合入れるか。

 

「それじゃあ色々試しつつ、造っていきますか。そういや、ジムテスさん。宿は大丈夫なんですか? 俺の手伝いをしてくれるのは嬉しいですが……」

「そうだねぇ……一応休業にはしているけど、多分そろそろガダルシャに戻るよ。ボロ宿でも流石にずっと休業ってわけにはいかないからね」

「そうですよね。すいません、色々手伝ってもらって」

「いいんだよ。歴史的瞬間に立ち会っているかもしれないんだ。こんなことくらい容易いさ」


 歴史的瞬間……。

 俺は歴史を変えれる程の男になれるのだろうか。

 まあ、期待されてるからにはやろう。 


「完成したらまた呼んでおくれ。どれくらいで出来そうだい?」

「んー……頑張って二週間で店を開けるくらいまで仕上げるつもりですが、誤差はあるかも」

「二週間!? 速いね……年寄りはついていけないよ。若いってのはいいねぇ」


 ジムテスさんはついていけないといった様子で嘆息を漏らした。


「とにかく、鍛錬を中断してるんだ。鍛錬に割く力をこちらに割けば、それなりに速く出来ると思いますよ」

 

 そう、俺は数年欠かしたことのなかった鍛錬を一時中断している。

 これはやむを得ない判断だと思う。

 先ずはスープで食っていけるようになることのほうが大事だ。

 鍛錬はその後、2倍3倍とこなせばいい。


「私は残るぞ、ガレッダよ」

「ウッズさん、ありがとうございます」

「手伝うことがあればなんでも言ってくれ」


 そういや、ウッズさんは年で仕事を辞めた後はゆっくりしてるって言ってたな。

 1人でも協力者がいるのはありがたい。


「さあ、まずは外装からだ。やるぞー!」


 頼もしい2人と共に、俺は家の本格的改造に取り掛かったのだった。



 ☆★☆★



 2週間後~


「はあっ……はあっ……よし……!!」

「……ガレッダ・イグレウスよ。少しお前が怖くなってきたんだが。何か家がでかくなってる気がするが、これは気のせいか」

「そこは気合で改造しました。よし、出来たぞ!! 俺の第2の人生!! 『ガレッダ・スープハウス』の完成だ!!」


 俺は手を叩き、『ガレッダスープハウス』の完成を祝った。

 

「まったく、本当に2週間でここまでやってのけるとは……それもほぼ1人で」

「いやいや、何言ってるんですかウッズさん。あなたとジムテスさんがいなければこのハウスは完成しませんでした。ジムテスさんは途中で宿に戻っちゃいましたけど」

「力になれたのなら光栄だ。私から言い出したことだからね」


 ガレッダ・イグレウス、ジムテスさん、ウッズさん。

 3人の努力の賜物である、『ガレッダスープハウス』が完成した。


「文句ない出来だ。華はあるけど主張しすぎない、不思議な魔力を感じるスープハウス。最高だ」


 ハウスの外見は、クリーム色の木材をベースに。

 そして3階の屋根裏部屋に追加で取り付けた綺麗な青の1つ窓は解放して、そこから赤と白の花を生やした。

 黒とクリーム色の三角の形をした屋根の下に、赤白の綺麗な花がアクセントを与えてくれる。

 2階の窓は丸型にして、ポップなスープハウス感を演出。

 そしてこだわったのは1階のハウスの入り口。

 1階の窓は、ガラスに均一な四角形の穴の鉄格子をつけた。

 格子模様が印象深く見える。

 ブラウンの木でできたドアの横には、赤い花と『ガレッダ・スープハウス』の看板が。

 ちなみに、1階は受付室と調理室と裏調理室、2階は俺の部屋と空き部屋、3階の屋根裏部屋は素材の備蓄倉庫的に使っていこうと思う。

 2階の空き部屋の用途は決めてないが、いつか助手とかが来た時の為に空けておこう。

 来なかったら研究室にする(悲しいけど)。 


「いよいよだ……完成したんだな」

「ああ。文句ない出来だ。本当によくやったよ。この店はきっと素晴らしいものになるぞ」


 ウッズさんにそう言われて、俺はますます期待に胸を膨らませた。

 やはり、諦めなければ必ずいいことも巡るもんだな。

 完成したハウスを見て、俺は心からそう思った。


「内装も整えた。必要な部屋、調合器具、素材、調合本、全て揃った」

「なら始め時だな、ガレッダ・イグレウスよ。お前の快進撃を」

「はい。俺はここで始めます。第2の人生を。ガレッダ・スープハウスで、スープで人を笑顔にする最高の人生を!!」


 こうしてガレッダ・イグレウスは、学園のある北とは遠く離れた南の街に造った『ガレッダ・スープハウス』にて、スープ職人として第2の人生をスタートさせたのだった。

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