【実は心配の要らなかった魔城編】

神々との前夜祭が終わり、翌朝シルビア達は出発した。

最後の魔城を破壊する為、ヴィシュヌ神達とサンフランシスコへと旅立った。



「最後の城だから簡単には終わらないかも……」



リリィはずっとそわそわしていた。

時折天を仰ぎ、祈りを捧げている。



「あいつらは最強の女神と破壊神だろ?魔族を一掃して無事に帰って来るさ。」



「そうだと良いんだけど……」



不安は拭えないのか、再び祈りを捧げていた。


レイフ達も不安なのか、俺達と一緒にリビングにいる。

そしてやっぱりそわそわしていた。


多分ソフィアも不安になっているはずだ。

そう思っていたのだが……



「あれ?ダン達はどこにも行かないの?」



リビングに顔を出したソフィアが、ホリデーなのにと首を傾げていた。



「こんな時に何を言ってるんだ?遊ぶ気分じゃないだろ。」



「え?あ、パパ達の事?」



きょとん気味のソフィアを訝しげに見る。

両親の事が心配じゃないのか?



「うわ、薄情者って顔してる。失礼よねぇ。」



「違うのか?心配しているようには見えないが……。」



「まあね。心配はしてないわ。」



その返答に驚く俺達。

やっぱり薄情なんじゃないか?



「あの2人は最強ペアなのよ?絶対勝つに決まってるわ。」



なるほど。

信じているから不安はないのか。



「という事で出掛けて来るわね。ホリデーとかじゃないと遊びに連れて行けないからさ。」



沈黙する俺達に手を振り、ソフィアは家族で出掛けて行った。



「余裕だな~。さすが不思議夫婦の娘だよな。」



「はは、すんなりってやつだな。どんな育て方をしたらああなるんだ?」



不思議な事でも素直に受け止めるソフィア。

マリアも、何事にも動じない子になればと思った。



「やっぱり環境かしら。シャスタさんって一年前まで車だったし、昔は車だったり人間だったりした訳でしょ?」



「なるほど。不思議な環境で育てばああなるのか。」



それなら無理だろう。

不思議な環境はここには──ある……な。


叔父と叔母が神と女神なら、それは不思議な環境に他ならない。


ん……?



「なあ。あいつらこの任務が終わったら神と女神になるんだよな?」



「ええ、新しい神の出現を」



「って事は無事に帰って来るって事じゃないか?」



「あ。」



全員がハタとした。


そして脱力するようにソファに腰掛け、みんなで顔を見合わせ苦笑した。



そして夜遅くに2人は帰宅した。


魔城は破壊したと連絡はもらっていたが、元気がなかった為心配していたのだが……



「ただいま~。任務完了しました~。」



2人は笑顔だった。

シヴァ神との別れにも平気そうで、シヴァ神への愛は無くなったと笑っていた。


神と女神になったという報告もあったが、俺には何の変化も感じられなかった。


シルビアが唯一悲しんだのはドゥンとの別れで……

シヴァ神が気の毒だとみんなが呆れていた。



「シルビアさん、昨日渡し忘れてたんですけど……」



と、悲しむシルビアにリリィが包みを手渡す。



「え、クリスマスプレゼント?」



「いえ、あの、お誕生日の……遅くなりましたけど……」



「あ、そっか。ふふ、ありがとう、リリィさん。」



渡せなくて当然だったと理解したシルビアが、喜んで包みを開けた。


そして中のクッションを見るなり──



「ドゥ~ン~っ」



ギュッと抱き締め泣き出した。



「あ~ん、ドゥンともふもふした~い、」



「元気になったら思う存分して下さい。それまではそのクッションで代用を──って、失礼しました!」



微笑んでいたシャスタが突然リリィに謝罪した。

当然、リリィはきょとんとしている。



「あの、シャスタさん……?謝罪の意味が……」



「えーと、その……プレゼントをドゥンの代用になんて言っちゃって……すみません……。」



聞いたリリィがクスッと笑う。



「気を遣いすぎですよ、シャスタさん。代用でも何でも、それでシルビアさんの寂しさが埋まるなら本望ですわ。」



その言葉を聞き、シルビアが顔を上げた。



「ありがとう、リリィさん。クッション、大事にするわね。」



「こちらこそありがとうございます。あの、硬さはそれで良いですか?ドゥンに近づけてみましょうか?」



「ほんと!?じゃあ、もう少し硬くしてくれる?ドゥンってもふもふだけど意外と引き締まった身体してるの。」



そう言いながらドゥンを思い出し、またクッションを抱き締めていた。



「ん……やっぱり柔らかすぎる……」



「はい、すぐに直しますね。」



寂しがるシルビアに微笑んで、クッションを受け取ったリリィが手直しをする。

ドゥンの硬さに近づいたクッションは、この後しばらくの間シルビアの癒しとなった。


家でくつろぐシルビアは、必ずと言っていい程クッションを抱えている。

リリィはそれを嬉しそうに眺めていた。

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