神も普通だと思い始めるお兄ちゃん夫婦

【一時帰宅の妹夫婦とパーティーを】

『来たぞ!』



「よし!行くぞみんな!」



ゼットの合図で外へ飛び出す家族達。

外に出ると門をくぐるトレーラーが見えた。



「きゃーっ、シルビアちゃんよ!」



トレーラーの助手席に座るシルビアを見て、母親が歓喜の声を上げている。


そわそわしながら到着を待ち、降りたシルビアに2人して飛びついた。


再会を喜ぶ親子と、マイケルさんとの再会を喜ぶシャスタ。

孫とも再会し、わいわいと騒いでいた。



「みんな嬉しそうね。」



「この屋敷の中心だからな、あの2人は。はは、ちゃんと成長してるみたいだな、シルビアは。」



「ここに戻って来た頃のシルビアさんみたい。子供化する前に戻ってるわね。」



身重の2人と俺は輪に入らず、遠巻きにシルビア達を見守っていた。

もみくちゃにされて何かあったら大変だからな。



「と、みんな戻って来たぞ。混雑する前に中に入れ。」



「はいはい。エリーさん、行きましょう。」



クスクス笑って家の中に入る2人。

人混みを避け、安全地帯へと移動した。


囲まれながら歩くシルビアが、こっちを見て『ただいま』と口パクしている。


俺達も『お帰り』と返し、囲まれるシルビアを眺めていた。



そんな中、母親との会話からリリィ達の話になり……



「ねえ、もうどっちか分かった?」



シルビアが目を輝かせて尋ねてきた。

俺を見たリリィに頷いて、シルビアの反応を確認する。



「ふふ、私は女の子よ。エリーさんは男の子。」



「あん、良いな~男の子。私も男の子が欲しい~。」



ん?思っていた反応と違う。

欲しいって……



「シルビアちゃん!作る事にしたの!?」



母親の言葉を聞いて、みんながシルビアを見た。



「あれ?言ってなかった?旅が終わったら作る予定だったのよ。」



「きゃあ、神の御子ですね。楽しみですわ。」



「サプライズにサプライズを返されたか……。」



少し悔しかったが、リリィが喜んでいるから良しとしよう。



「ね、触ってもいい?」



「勿論ですわ。」



リリィの腹に手を置くシルビア。



「名前はもう決めたの?」



「ああ。リリィの希望でマリアに決めた。」



「ふふ、そっか。マリア~、早く会いに来てね~。あっ、動いた!」



きっと返事をしたんだろう。

俺も早く会いたいぞ、マリア。


娘に会えるまであと1ヶ月と少しだ。

はは、リリィに似て美人なんだろうな。



「お兄ちゃん達の方は?」



「候補が3つあってな、顔見て決める事にしたんだ。」



「そっか。いいなぁ、男の子……。」



早く欲しいと呟くシルビア。

そこへシャスタが顔を出し、ケーキを運ぶ為シルビアを連れて行った。



「随分欲しがってたな、男の子。もう娘がいるからか?」



「多分な。まあ、化身も関係してるんじゃないか?シヴァ神達には息子がいるからな。」



シルビアはメールでガネーシャ神達を嬉しそうに紹介していた。


息子……と言って良いのか分からないが、彼らに触れて望みが強くなったんだろう。



「ダン!レイフ!ちょっと手伝って!」



ソフィアに呼ばれて振り向くと、パーティー用のテーブルを運んでいた。



「もう準備するのか?」



「ええ。隊員達も来るからたくさん用意しなくちゃいけないの。だから早めにね。」



パーティーは屋敷全体が会場になると言う。



「大所帯も考え物だな。行くぞ、レイフ。」



「おう。エリー達は無理すんなよ。」



頷いた2人を確認し、ソフィアについて行く。


まあ、2人が張り切って手伝いをするのは目に見えているけどな。



そして始まったクリスマスパーティー。

リリィとエリーは食欲全開だった。


その食べっぷりときたら……。



「見てるだけで胸焼けしてくるよ俺……。」



「はは、2人分だから仕方ないさ。」



とは言うものの、レイフの気持ちは良く分かる。

だから俺達は2人から離れてパーティーを楽しんでいた。



「ん?あの2人……」



入口でソフィアと話している人物には見覚えがあった。

というか、忘れられる顔ではない。


直に見る顔は遠目に見ても美形だと分かる顔で……隣にいる彼女もまた然り……。


彼らが何をしに来たのかと、成り行きを目で追っていた。



はは、リリィが呆然としている。

神と女神が目の前にいたら、そりゃあ──


まずいじゃないか!

プラチナブロンドの神に会った時は気絶したんだった!



「リリィ!」



今倒れたら非常にまずい。

慌てて走るが、ソフィアが支えているのを見てホッとした。



「リリィ、大丈夫か?」



「ダン、ヴィシュヌ神様とラクシュミー様が、」



やはりまずい。


興奮するリリィを落ち着かせる為、パーティー会場を出て部屋に戻った。



「ああっ、まさかヴィシュヌ神様達にも会えるなんて……きゃーっ」



「だから落ち着けって。興奮し過ぎてマリアが出て来たらどうするんだ?」



「でもでも!興奮するなと言う方が無理だわ!シヴァ神様だけじゃなくてヴィシュヌ神様達もなのよ!?」



興奮覚めやらぬリリィにため息をつく。

もうお手上げだ。


ん?待てよ。



「リリィ、そんなんじゃ神々が気を遣うんじゃないか?」



「え……?気を遣う……?」



「リリィの身体を心配するだろう?シルビアは当然だが、シヴァ神もヴィシュヌ神も心配するんじゃないか?」



それは駄目だと慌てるリリィ。



「私なんかが神々に気遣われるなんて、そんな畏れ多い事、」



「だったら普通に接しろよ。シルビアに接するようにシヴァ神達にも……できるだろ?」



「う……それが神々の望みなら……」



以前と同じ、信心深さ故の決断だった。


一度決断してしまえばリリィは上手くやって行ける。

シルビア達にもちゃんと家族として接しているからな。


こうして落ち着いたリリィを連れ、パーティー会場へと戻った。

この間にシヴァ神は眠ったらしく、シャスタはシャスタに戻っていた。



「貴女がリリィさん?」



ラクシュミーに声をかけられ、卒倒しそうになるリリィだが……



「は、はい。あの、どうして私の名を……?」



何とか普通に接していた。



「ふふ、リリィさんは有名人ですからね。お会いできて光栄です。」



「そ、そんな、私の方こそ光栄ですわ……。」



横で聞いていた俺は首を傾げていた。

リリィが有名人?

神々にとってのか……?



「リリィさんの信心深さは貴重物なんですよ。最近ではダンさんの名も知れ渡ってきてますけどね。」



「俺も……?」



「ええ。祈りは私達の力の源ですから、多くの祈りを捧げてくれるダンさんにも感謝してるんですよ。」



「ああ、はは、そういう事か……。」



やはり俺の徳も上がっているらしい。

それよりも、リリィが有名人だったとは驚きだ。



「有名人か……。神の世界でもそんな感覚があるとは思いもしなかった。」



「そうですか?人間も神も、本質は変わらないと思いますよ。」



本質ね……。

神と人間が同じとは到底思えないがな。


そう思っていたが、翌日の朝食の席でその考えを変える事となる。

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