第5話 悪霊との取引

 忍はキーホルダーを手で転がしながら空を泳いでいる。

 その間に学校にたどり着き、教室へと入る。それに続いて私以外誰も見えない忍が続く。

 私が教室に足を踏み入れた瞬間、教室がしーんっと静まり返るのはいつも通り。いつもと違うのは、"生きている忍がいない"ところだろうか。

「お、未亡人今日もきたw」

 今日も今日とていじめっ子のリーダーである美沙みさが私をいじっている。まぁそんなことに気を止めず、席に向かおうとする––––––が


 私の席が、机ごとなくなっていた。

 そして私の席があった場所にはグロテスクな"ナニカ"が大量に散りばめられていた。


 私は今までになかった仕打ちに体が固まってしまう。

 多分あれは、ネズミの死骸...

 そう察した瞬間、急激に吐き気が襲ってきて急いで口を手で押さえる。

「え、吐くなよ?教室が汚れちゃうじゃんw」

 美沙の隣で私の反応を見ていた正美まさみが声を上げる。

「忍...」

 忍がさっきまでいた右後ろを見ると、そこに姿はなかった。

 こんなときにどこいったの...

 呆れと1人でいるという恐怖を感じながら首を戻すと、美沙の後ろに忍は浮いていた。

 何故か怒りで満ち溢れたような顔で...。


 忍は手を横に広げると言う。

『許さない。こいつらに一時の処罰を!!」

 そうつぶやいた瞬間、教室にいた私以外の生徒が一瞬にして硬直する。


 一瞬の間––––––


「きゃー!!!!!!!」

「ぎゃぁぁぁああ!!!」

「うわぁぁぁぁぁあ!!!!」


 次の瞬間、私を除いたクラスメイトが叫び始める。それは驚いた叫びではなく、死に直面したときの断末魔のような、耳を塞ぎたくなる"悲鳴"だった。


「な、なに!?忍、何をしたの!?」

 中には泣き出す者、崩れ落ちる者もいた。

『悪霊と取引をして"その人の人生で1番恐ろしかったこと"を鮮明に思い出させたんだよ』

 忍は悲鳴をあげ続けるクラスメイトを見ながらくくく、と笑いをこぼす。

 悪霊と取引して、その人の1番恐ろしかったことを思い出させる...

 そんなことが可能であっても、あまりにもひどすぎると思った。

 なぜならもし私がそんな状態にされたら、忍が死んだ瞬間をきっと思い出すからだ。


「でも、なんでそんなこと...」

 私が言うと忍はこちらを睨みつける。

『こうでもしなければ"奴ら"はわからないだろうからな。これも玲央奈のためだ』


 あぁダメだ。

 君はあまりにも怨念が強すぎる!!!

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