第2話 醜い希望

 目が覚めるとかも一つない快晴が広がっていた。どうやら学校の屋上に寝転がっているらしい。

 どうしてこんなところに...

 そう思った瞬間、全て思い出した。

 クラスメイトによってしのぶが殺されたこと。ずっと一緒だよ、って忍と最期の約束をしたこと。忍の死を真に受け入れた瞬間耐え切れなくなり、屋上に来て膝から崩れ落ちたこと。

 気づいたら大粒の涙が頬を伝っていた。

 もう2度と、忍に会えないんだ...

「忍...」

 小さく呟くと、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「玲央奈」

 驚いて後ろを振り向くと、死んだはずの忍がそこに立っていた。

「忍!?どうしてここに...っ」

 私がいい終わる前に忍が抱きついてきた。

「玲央奈...ごめん」

 その体は少し透けていて、腕が忍の体を過ぎていった。

 忍は殺されたはずなのに...

 まるで、幽霊になって帰ってきたみたい。

「なんで謝るの、忍は何も悪くない!私が美沙を止められなかったから...」

「違う!玲央奈は何も悪くない!!」

 私から離れた忍は叫ぶ。これほどまでに大声を出している忍を、私は今まで見たことがなかった。

「僕は、僕がそうしたいと思った時には体が勝手に動いていた。でも、玲央奈を一人にさせてしまった...」

 そんなことでそんなに叫んでくれたの?それが正直な感想だった。

 忍は私を一人にしたくないがためにこうして戻ってきてくれたのだ。

「忍、ありがとう。私は大丈夫だから。またこうして忍にも会えたし。もう思い残すことはないよ」

 無意識にそんな言葉が出ていた。

 思い残すことはない。そう、忍を殺したクラスメイトが次に狙うのは私だろう。

 忍の後を追って死ねるなら、私の本望だ。

「そんなこと言うな。それに、僕は一つやり遂げたいことができたからまた帰ってきたんだ。何だと思う?」

「やり遂げたいこと、?」

 殺された人からしたら、やり遂げたいこととはは何が思いつくのだろう?

 思いを巡らせると、一つの恐ろしい仮説に辿り着く。

「もしかして...」


「そう、復讐だ。僕は奴らに復讐するために帰ってきた–––––」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それからというもの、忍は私の守護霊になった。守護神といっても、基本的にずっと私の後をぷかぷかと浮いてついてくるだけだが。

 今日は疲れたからもう帰ろうと思って廊下を歩いていると、教室の前に人だかりができていることに気づく。

「え、まじ?本物?」

「ガチじゃん、拡散しよ」

 きっとその人だかりは忍の死体に群がっている野次馬だろう。

 誰も助けようとしない状況に胸糞が悪くなった。今すぐに忍を悪く言った奴らを殴りにいきたい。そう思って一歩踏み出すと、目の前に透けた腕が来て止められた。

「ちょっと忍、どいて。私は許せないの。あいつらが忍をあんな風に扱ってるのが」

 いいながら忍の方を見ると、忍は何故か笑っていた。不気味な程に歪んだ笑顔で。

「僕の方が許せないに決まってる。だけど、もっともっと苦しませてあげたいよね」

 忍は言い終わると、ひひひ、と小さく笑った。

 忍を見ながら考える。わからないこともない。もし私が殺されて復讐するとなったら、同じことを考えるだろう。

「そうよね、そうしよう」

 私が言うと、忍はいつもの優しい笑顔で大きく頷いた。

「あーーー!!!死体の元彼女だー!!」

 すると野次馬の中から声が上がった。

 次の瞬間、大勢の野次馬の目が私を捉える。

「今の気持ちはどう?悲しい?寂しい?」

 声の主である冬木美沙ふゆきみさは私に近寄ると面白おかしそうに聞いてくる。

「それとも嬉しかったりしたー?笑」

 その横から出てきた一軍女子の高谷正美たかやまさみがとてつもないことを聞いてくる。

 だが忍が真後ろにいるのに私にしか目がいかないということは、私にしか忍は見えていないんだ、と実感した。

「玲央奈、今は我慢だ」

 耳元で聞こえるその声の通りになにも言い返さない。だが握られた拳に込められた力はどんどん強くなっていった。

「あれ、声も出ないくらい悲しいんだー。かわいそーに。でもあんなハーフ男、死んで当然でしょ?」

 美沙の言葉に私は感情が爆発した。

 拳を振り上げてその面を殴ろうとする––––。


 だが体が少したりとも動かなかった。指先まで硬直しており、おまけに声も何も出なかった。

「は、無視とかキモ。もういーや。じゃあね、明日も学校こいよー」

 美沙が踵を返し、モデルのようにトコトコと歩いていくと、野次馬たちは私を睨んだかと思うと、美沙について行ってしまった。


「っっっ!!」

 自由に体が動かせるようになったのは、野次馬たちが奥の廊下を曲がった時だった。

「なに、今の!?!?」

 1番最初にこの言葉がでた。

 だってあの感覚はまるで––––––

「玲央奈に金縛りをかけたんだ」

「な、なんでそんなこと...」

「だってそうでもしないと玲央奈、冬木のこと殴ってたでしょ?それじゃ計画は無駄だよね」

 確かにそうだ。忍は私が変な行動をしないようにするために意図的に金縛りをかけたのだ。

「そんなことできたんだ、」

「うん、そうみたいだね。僕も知らなかったけどね」

 一見平和に見える会話。でもそこには純粋な悪が混ざっていた。

「じゃあまずは一人ずつ潰していこっか!」

 忍は背伸びをすると、窓から見える空を見上げながらいう。

「うん、そうしよう」



復讐リストーあと??人ーー

・冬木美沙

・市原花代

・高谷正美



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