これはとある、『英雄』になるはずだったモノの物語
@sonlamar1222
『プロローグ』
ーーー『固有魔法』
それは人類の希望であり、絶対的力の象徴である。
通常の魔法とは違い、『固有魔法』というのはその人特有のオリジナル魔法であり、この世でたった一つの代物なのだ。
故に希少であり、人類の10%しか顕現できないと言われている。だから我が子が『固有魔法』を顕現したら大半の親はその子を借金してでも『魔導科学園』に通わせる。
何せ、『固有魔法』を持っている人は例外なく人生を成功しているからだ。
しかしそれは本当なのか?『固有魔法』は確かに絶大な力を持っているが、人生を間違いなく豊かに出来るものなのか?
間違いなく、例外なく、絶対に人間を幸せに出来るのか?
もちろん、答えはノーだ。この世に絶対に幸せに出来るものなんて無く、例えこの世の全てを支配しようとしても心の片隅には孤独などの感情はある。
確かに絶対的幸福はこの世にないが、幸せ単体なら存在する。そして今までの『固有魔法』所持者は全員満足する人生を送った。
あまりにも強力すぎるため、常人にとっては幸せそのもの。
『固有魔法』を持っている人々自身もこれがあるからこそこんな幸せな人生を送れてるんだと知っている。
本来なら幸せな人生を送れた少年。本来なら自分の『固有魔法』を駆使し、幸福に埋もれるような人生を送るはずだった。
だが、その運命はこの世界に紛れ込んだ『転生者』によって全てねじ伏せがれた。もう、そんな『物語』は存在しない。
でも心は『物語』の登場人物そのままだ。それ故、彼は別の方向で幸福な人生を掴むのだった。
そんな少年の新たなる『人生』を見ようではないか。果たして、その先にあるのは何なのか。これは神ですらわからない、予測不可能な『物語』。
ーーーエラディア村
王国からは随分と遠い小さな村。人口は約百人程度しかおらず、他国からの軍隊などがこれば一瞬で壊滅しそうなほどの弱々しい雰囲気。
だが実際はこの村、『固有魔法師』の宝であり、三年には一回『固有魔法』もちの子供が生まれるのだ。
これは異質そのものであり、こんなに『固有魔法』もちが生まれるなんて世界中を探してもここだけだ。
そしてそんなに『固有魔法』持ちがある故に大人たちはついつい比較してしまうのだ。今回は豊作か、不作か。
本来なら褒める、いやいくら褒めても足りないぐらいのチート魔法を例年の基準より下と判断されたら貧乏生活確定、超えたら最高級のおもてなし。
そんな異常だからけの村に何と九人の『固有魔法』持ちの赤子が生まれたのだ。この事態にエラディア村ですら驚くしかなく、すぐさま子供達について会議が行われた。
「どうする、今年は九人だぞ!?九人!」
「そうだ!いくら我が村が『固有魔法』を放出しやすいと言ってもこれは異常すぎる。世界の危機になってしまう、故に直ちに処分した方が良い。」
「貴様はアホなのか?これは神からの啓示なんだ、その九人の赤子たちは神からの使者なのだ!!」
「いや、それは思い込みでしかない。まだ確証もないし、『固有魔法』が弱いかもしれない」
そんな議論が白熱していく中、村の長は静かに色んな意見を聞いた。そして段々と静かになった頃、ついに喋り始めた。
「この村の長として決断する。その九人の赤子を愛情持って育てろ、間違いなく将来有望になるだろう」
そうして赤子たちの処置について決まった。だがこの時村の誰もが想像できなかったであろう。この九人のうち二人は今後の世界に多大なる影響を及ぼす存在になることを。
「おいパラド!待てよ、お前早いんだから」
「へへ、置いてかれないように頑張るんだよ〜」
「潰す」
そこには今で言う『シリウス』のように輝く白い髪をした少年と、太陽がそのまま髪になったのかと言うほどに赤く、オレンジでほんの少し黄色の髪をした少年たちがいた。
少年達の名はパラドックスとカイ・ルミラステ。
この村で言う九人の神の使者のうちの二人であった。。。
どうもみんなこんにちは!僕の名前はパラドクスというんだけど名前が長すぎるから周りの人たちは僕のことを略称してパラドって呼んでるんだ。
今は親友の一人であるカイと一緒に鬼ごっこをしている。なんか僕の体って結構丈夫らしく、身体能力単体で言うと大人すらも凌げれるとか。
あと自分たちはなんか『特別な力』?を持っているらしく、大人たちはいつも僕たちに挨拶しにくるのだ。
正直に言うと不気味というか、無理やりされてる感がすごくて僕はちょっと会話するのが嫌だ。でも同世代の一人はなんかめちゃくちゃ嬉しい顔をしていたなー。なんでだろう?
そんなことはどうでもよく、今はとりあえず鬼ごっこに集中しよう。カイって油断したらすぐ捕まっちゃうからね、本気でやらないと。
「くそ、お前本当にはえーな。なんで俺が追いついてないねん」
「へへ、何だって僕は『勇者』になるからね」
「そんな勇者様が人を煽るのってどうかと思うが?」
「これとは別なの」
ちなみに鬼ごっこは僕の勝利となった。これで42勝40敗になった。しばらくの間勝敗同率だったから勝ち越したの久しぶりだな。
ふー、それじゃーリシアのところに行こー!いつものように童話を聞かせてくれるのかな?
「あら、今日も来てくれたんですね、パラドちゃん」
「その呼び方そろそろ変えてくれないかな、リシア?」
そこにはピンク髪、キラキラと輝く緑色の瞳、そして誰もが見惚れるほどの美しい顔。
リシア。僕の同世代の一人の少女で、なんかいつも不思議な雰囲気を出しているんだ。そのせいで大人たちからは少し怖がられているけど実際に話すとめちゃくちゃ優しい。
ろくに話さないのに勝手にイメージを決めつけて怖がっている大人たちに少し腹が立ってくる。ちゃんと話せば良いのに。
「良いんですよ、パラドちゃん。これは私が良く話さないから起こってしまったことなんですから、気に止む必要はないわよ」
「え、顔に出てた?」
「いえ、何となくですよ」
そう微笑みながら本の方へと顔を戻した。何でだろう、リシアっていつも僕の考えていることを当ててくるんだよ。いくら頑張って無表情にしても何故か当たる、不思議な女の子だ。
「今日は何の童話を教えてくれるんだ?」
「あら、もう飽きたのかと」
「そんなわけないでしょ、リシアの話はいつも楽しみにしているよ」
これは紛れもな本心であり、リシアのところにいく時はいつも楽しみにしている。今日はどんな話をするのかな、怖い話?幸せな話?そう思いながら話す。
僕の言葉を聞いてリシアは少し目を開いていて驚愕の表情を浮かべたがすぐさまにいつもの微笑んでいる顔に直し、僕に話しかけてきた。
「パラドちゃんは本当に私のことが好きですね」
「うん?好きだよ、リシアのこと」
「そういうのは心の底から好きな人に言うものなのですよ」
「へー、そうなんだ」
気のせいなのかリシアの頬が少し赤くなっている。何でだろう、風邪とか引いたのかな?
「あ、またリシアとパラドがイチャイチャしてるよ、アルトお姉ちゃん」
「しっ、黙りなさいノア!」
突然大きな声が聞こえ、その声が発声されたところを見るとそこには二人の姉弟がいた。
二人とも青く煌めく髪を持っており、姉の方は星空を体現したかの蒼色のした目、弟の方は空を体現するかのような水色のした目。
そんな特徴的な髪色と目の色をしている家なんて限られており、しかも子供というならアストラレイン家の姉弟しかいないのだ。
僕の目があったらアルトはすぐさま弟のノアを掴み、全速力で走ったが残念、僕はカイと良い勝負をできるほどの脚力の持ち主なため、すぐ追いついた。
「うー、ごめんなさい、パラドお兄ちゃん。イチャイチャとかもう言わないから。」
「うちの弟が空気をぶち壊して大変申し訳ない」
追いつくや否や、すぐに土下座の姿勢になり、ノアはというと顔を地面に擦り付けながら泣いていたのだ。
人が見れば僕が脅しているかのように見えるが、僕は別にそこまで意地悪な性格をしていないんだが?
「別に怒っているわけとかじゃいなからね、ノア。でもね、二人だけで会話をしている時はなるべく大きな声で喋んないように。こういうのはコソコソやるもんだ」
「わかったパラドお兄ちゃん!次はコソコソしゃべるね」
「よろしい」
「ちょっと、私の弟に何の教育をしているんだパラド」
そうしてアルトとお互いの顔を見た後、爆笑をした。はは、確かに。僕はノアに何を教えているんだろう。
ノアはというと心底不思議な表情をしており、時間が経つにつれて「僕だけ仲間はずれ〜!」って暴れ回った。
落ち着かせるのに少し時間はかかったがそのあとはぐっすり眠ってしまい、アルトとはお別れした。
全速力でリシアと話していたところに行ったがそこには誰もいなく、リシアはどうやら帰ったらしい。まー仕方ないか、アルトとノアとは十分ぐらい話してしまったし。
ちょっと落ち込みながら僕の家へと帰った。明日もリシアと話そう、そう思いながら。
これはとある、『英雄』になるはずだったモノの物語 @sonlamar1222
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