第2話竜の眼島小中学校
古びた木造の教室、上履きの音をひびかせながら、足早に可奈美が桜に近寄ってきた。
「桜、聞いた?。例の廃ビルで幽霊が出たんだって」
元気で明るく、中二病真っ只中の可奈美は、幽霊が大好物だ。
「可奈美。また幽霊?。この前の幽霊の正体覚えてる?、ネズミだったよね」
長い髪をかき上げながら、桜は呆れた様な表情をしたが、アイドルみたいにカワイイ顔では、どんな表情をしても可愛く愛らしい。
「あれは、鈴木さんのお婆ちゃんが、『ウチには幽霊が住んでる』って、言い張って、『音がするし、物が移動する。絶対にポルターガイストよ』とか言うから見に行っただけよ」
「私まで鈴木さん家に泊まらせて」
「だって、桜は神主の娘で巫女なんだから。除霊するのが仕事でしょ」
「私、家の手伝いで巫女の格好もするけど。普通の中学生だし、霊感も有りません」
「今度こそ本物よ。例の廃ビルで、不気味に光る幽霊が動いてるのを何人も観てるの」
例の廃ビルは、戦時中の日本軍研究施設で、火事の為に真っ黒なオドロオドロしい姿になっていた。
今は歴代の島の子供達の肝試しの会場になっていた。
「そういうの調べるのって、駐在さんの仕事よね」
「この島にはもう何年も駐在さんが居ないでしょ」
「じゃあ、島の消防団に任せれば?」
「消防団員ってみんな、80才以上よ。心臓麻痺でもおこしたら困るよ」
「例の廃ビルって、戦争中に危ない研究をしてたって噂でしょ?」
「そう。戦時中に人体実験をしていて、毎夜、被害者の幽霊が…」
「はいはい。サリンとか毒ガスの研究をしてたとしたら、近寄らない方が良いいよ。何年たっても健康被害があるかもしれないし」
「百年前の毒が今でも効くわけないでしょ」
ー勉強が苦手な可奈美は、いつだって色々間違えるー
「百年たってないし」
「みんなに集合かけておいたの。今夜7時に迎えに行くから。」
人の言う事に耳を貸さない可奈美は、勝手な事を言って、教室から出ていった。
「私、行きたく無いんだけど…」
桜はため息をついたが、同時に観念もした。
可奈美が言い出したら、誰にも止められない。
夜7時ちょうどに可奈美が家に来て、桜を引っ張って廃ビルに連れて行った。
灯りも無い場所、岩山に隠れるように廃ビルは焼け爛れたコンクリートの黒い姿で、おどろおどろしく建っていた。
「爆ぜろリアル! 弾けろシナプス!」
可奈美が理由のわからない呪文を唱えた、中二病真っ只中だ。
廃ビル前には霧島和夫、清水亜希、海野陽介、佐藤隆也、鈴木真由がすでに到着している。
「え?。どうしたの?。全校生徒が集合して」
そう、竜の眼島小中学校の全校生徒はたった七人。
既に小学生は一人も居らず、中一の桜の卒業と同時に廃校になる予定だ。
「可奈美が思い出づくりに、夜の廃ビル探検をしようってきかなくて」
「いいじゃないか。こういう経験は、若い時しかできないぞ」
「霧島さん。『若い時』って、私達まだ、子供ですよね」
亜希が冷たい目で霧島に突っ込んだ。
「祭壇に捧げられし、贄(にえ)よ。我が血肉となり力を与え給え!」
可奈美が理由のわからない呪文を唱え、亜希を贄にした。
可奈美は霧島の事が好きで、霧島に突っ込んだ亜希を咎めたらしかった。
「面白いじゃない。廃ビルで幽霊探検なんて。ユーチューバーみたい」
ー真美は毎週末、インターネットを使う為に
本土の親戚の家に泊まりに行っているー
「真由ちゃん。立ち入り禁止の廃ビルよ。古いし危険だから、立ち入り禁止されてるんでしょ?」
「亜希さん、もっと言って。もしかしたら、建物が崩れてくるかも」
「桜って、一番若いのに、常識的よね。たまには冒険しようよ」
「可奈美は幽霊とか怪奇現象とかに弱すぎ」
「せっかく集まったんだ。ちょっとだけ廃ビルに入ってみようぜ」
海野はちょっとワクワクしていた。
「そうだよ。危なそうだったら引き返せば良い。青春の思い出になるぞ」
三年生の霧島が提案した。
ー霧島は、来年には島を出て本土の高校に入学する予定だ。可奈美の事が好きな霧島は、この島で二人の思い出づくりかったのだー
「黒歴史になるんじゃないの?」
真美が茶化す。
「全員で入って、何かあったら大変。二組に別れて順番に入るんだったら、仕方ないから付き合うわ」
桜が落ち着いた様子で提案した。
アイドルみたいな見た目だが、桜は頭脳明晰で皆に信頼されていた。
「今夜は桜の言う事を聞いて、二組に別れよう」
霧島がまとめた。
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