第7話 俺はトレジャーハンター
依頼の達成で5,000Gという大金を手にした翌週末。
俺は、これまでとは比較にならないほどの大きな期待を胸に『ゴブリンの洞穴』の入り口に立っていた。もはや、俺は単なるダンジョンの清掃員ではない。
その正体は、Fランクスキル【換金】の探知能力を駆使して、失われたお宝を探し出す、孤高の探索者……。
(そうだ……今日から俺は、トレジャーハンター・サトウだ!)
心の中で俺は勝手に自分のジョブをクラスチェンジさせ、一人悦に入っていた。
しかし、現実はそう甘くはない。
意気揚々とダンジョンに潜り、新能力「アイテム・スキャン(仮称)」を駆使して探索を始めたものの、お宝どころか、他の探索者の落とし物すら、そう簡単に見つかるものではなかった。
考えてみれば当たり前だ。
先週のペンダント発見は、完全に幸運の産物だったのだ。
「うーむ、やはり地道な検証作業が必要か……」
トレジャーハンター・サトウは、開始わずか一時間で現実的な分析家サトウへとジョブチェンジを余儀なくされた。
俺は、この新能力の性能を一つ一つ詳しく検証していくことにした。
まず、探知できる範囲はどれくらいか?
地面や壁に手をかざし、意識を集中させてみる。どうやら、自分の手を中心とした半径1メートル程度が有効範囲の限界らしい。
広範囲をまとめてスキャン、なんて便利な機能はないようだ。
これは、かなり地道な作業になるな。
次に、何に反応するのか?
色々なものに手をかざしてみた結果、基本的に「換金価値のあるもの」にしか、明確な反応は返ってこないことが分かった。
ただの石ころや土、苔などには『価値:0G』と表示されるか、そもそも反応が鈍い。
これはゴミの中からお宝を探す上で非常に便利な特性と言えるだろう。
そして、壁の向こう側は探知できるのか?
これが一番の肝だ。
試してみると、分厚い岩盤の向こうは無理だが、薄い壁や岩の隙間の奥くらいならば微かに反応が返ってくることが判明した。
「なるほどな……」
まるでゲームの攻略法を見つけ出すようなこの作業に俺は夢中になっていた。
サラリーマンとして培った地味で細かい分析作業が、まさかこんな形で役に立つなんて。
俺は、これまで見過ごしていたダンジョンの壁際や人が入れないような岩の隙間を新能力で丹念にスキャンしていくことにした。
すると、探索開始から二時間ほど経った頃だろうか。
ある岩壁に人が一人やっと通れるくらいの狭い通路の奥からこれまでとは質の違う微かな反応を捉えた。
手をかざし、意識を集中させる。
『名称:銅鉱石(低品質)、換金価値:50G』
「ご、50G!?」
思わず声が出た。
これまで俺が拾ってきた、どんなゴミよりも高い価値。これは、他の探索者の落とし物ではない。ダンジョンに天然で生成された、正真正銘の『鉱石』なのだ。
俺は、初めて「ゴミ拾い」でも「落とし物探し」でもない、純粋な『素材採取』の機会に恵まれたのだ。
「ふひひ……見つけたぞ、お宝……!」
俺は喜び勇んで狭い通路の奥へと進んだ。
そこには、鈍い赤茶色の光を放つ鉱石が確かに岩盤に埋まっていた。
しかし、ここで新たな問題が発生したのだ。
鉱石が岩盤にガッチリと食い込んでいて、びくともしないのだ。
「う、うおお……!と、とれない……!」
俺は、ホームセンターで買った安物のタガネとハンマーを取り出し、汗だくになりながら岩盤を叩き始めた。カン、カン、と情けない音が薄暗い通路に響き渡る。
戦闘よりは遥かに安全だ。
だが、これもまたひどい重労働だった。
体力のない運動不足のおじさんには、あまりにも過酷な作業。
30分ほど格闘した末、ようやく俺は手のひらサイズの銅鉱石をカチ割って取り出すことに成功した。
ぜえぜえと息を切らしながら、俺はその銅鉱石を手に取り、最高の“推し愛”を込めて【換金】する。
(奏ちゃんの……あの、ライブ中に見せる、キリッとした眉の下にある、ちょっと困ったような八重歯の輝き……プライスレス……!)
『銅鉱石(低品質)を換金しました。50Gを獲得しました』
『――“奏ちゃんの八見歯の輝き”ボーナスが加算されました。+3G』
「おお……!ボーナスが、3円に増えてる……!」
苦労が報われた瞬間だった。
この日の稼ぎは、地道なゴミ拾いで得た収益とこの銅鉱石一つを合わせて、合計2,865G。
しかし、金額以上に、たった一つの鉱石が53Gになったという事実が俺に大きな可能性を示してくれた。
「落とし物探し」に加えて「隠された鉱脈探し」という、新たな目標。
だが、そのためには……。
「もっと、効率よく岩を砕ける、ちゃんとした道具が……『ピッケル』が必要だ……!」
俺は、稼いだG(ゴールド)を初めて「探索者らしい道具」に投資することを決意した。
これまでのホームセンター装備から卒業し、本物の探索者が通う専門店へ。
俺の副業ダンジョンライフが、また一つ新しいステージへと進もうとしていた。
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