第4話
「ところでさ、2ヶ月も人一人いなくなったら大問題だよね? とうちゃんはウチと一緒にいるから無事なのが解ってるからいいけどさ。お母さんはそんなことわかるわけないし、そのあたりはどうするの?」
皐月にそう指摘され今更ながらに気付く俺。
自分だって立派な行方不明者の仲間入りだ。
親類縁者は目の前の娘とその母親、所謂元嫁ぐらいだけど会社はある程度騒ぎにはなるだろう。
自分一人ならいいか……とか考えていた事自体、わりと恥ずかしい。
「人を馬鹿呼ばわりしている人って案外自分自身を見れてないもんなんだね、おとななのになー ちちおやなのになー」
「算数はできないのに良いところに気がつくね、皐月ちゃん。」
「おやおや、算数は学ばれたのに社会的な常識を学ぶ機会に恵まれなかったのかな? 社会に出ても自分で学ぶ姿勢は大切なんだよ、とうちゃん。」
「ぐぬぬぅ」
なかなか上手にカウンターをいれてくるじゃない。
ごもっともすぎて泣けてくる。
「その辺りも心配せんでもえぇというか、ヌシらの体は向こうにある。」
「どゆこと?」
「ヌシらの魂だけをこちらに引っ張り込んで引っ越ししてきたようなもんでの、体は向こうで仮死状態になっとる。」
「じゃあ、この体は?」
「それはヌシらの魂の入れ物として、ワシの魂を分けて作ったんじゃ。 会心の出来じゃがな、こっちに持ってくるのが二人に増えた分、ワシの力もすっからかんじゃ。」
「あのさ、皐月はこの娘の母親と同居してるからすぐ発見してもらえると思うよ? けど、俺、一人暮らしでさ、誰にも発見してもらえなさそうなんだけど、それはどうなるの?」
「そこは考えとらんかったわ、すまん。」
レティがすげぇフランクに笑っている。
こいつ、俺が死んだらどうしてくれるんだよ。
「まぁ、多分大丈夫じゃ。 仮死状態ってゆっとったじゃろ。 ほとんど時が止まったような状態になっとるはずじゃから。」
「じゃあ自宅PCの前で座ったままになってるのか……ワンチャン娘が仮死状態になってることを娘の母親が伝えにくる事を願うか……」
性癖を顕にする画像とか開いてなくて良かった。
「流石にそれぐらいはしてくれると思わないでもないけど、お母さんもアレな人だからワンチャン父ちゃんに伝えないのもあり得るよね!」
「ヌシの築いた人間関係を信じるんじゃな。」
驚くほど低い期待値にかけなければならない自分の人間関係をこんなところで反省するとは思いもしなかった。
「まぁ、ヌシは返すつもりもないんじゃがな。」
「なんか言ったか?」
「ん? 別になんも言っとらんよ。」
レティは楽しそう。
その笑顔は皐月がカブトムシを捕まえてきた時に爛々とした目で虫かごをじっと眺めていたのを思い出させた……
さて、娘の帰還はレティの魔力の回復を待たなければならない。
と言うことは当然どれくらいの期間になるかわからないが、この世界で暮らさなければならない。
なので当面の問題は生活の基盤を整える事にあった。
レティの魔力から作ったらしい体でもお腹は空いてくる。
食べ物を買うにはお金が必要だ。
単純な肉体労働やその他の手段で稼ぐ方法があるか。
それを知るにはまずは情報収集だ。
情報を制するものは世界を制する。
手当たり次第に町行く人に話しかけたり、露店商や宿屋、酒場に鍛冶屋、何でもかんでも話しかけた。
言語に関してはレティの神様パワーで理解できた。
基となる体がレティのもので俺や皐月の魂と混ざり合って出来あがった体だからなんとか。
胡散臭いことこの上ないが、そこを詰めても仕方ないし、話せて聞こえるならそれで良い。
文字も理解できるのはポイントが高い。
情報収集の結果だけど、ここはアーフェンクライン帝国で合っていた。
帝国は千年王国とも呼ばれ、かの群雄割拠の時代から現代まで残る唯一の国らしい。
かの時代なんてものは当然知らんけど話したおっちゃんは誇らしげに自国を語っていた。
自分の国を愛するのは良い事よね。
他にも小国はあれどヒュランの国のバストン共和国、ネイフェルの国、ウィンダミア連邦国、そしてこのアーフェンクライン帝国の三つの国が覇権を争って百年以上戦争をしているそうだ。
バストン共和国は比較的新しい国で百年ほど前に王制から共和制に変わったんだとか。
魔法技術を駆使した機械を作るのが得意で兵器まであるそうだ。
ヒュランという見た目がほとんど人間と同じ種族が人口のほとんどを占めている。
身体能力ではエルフィニアに劣り、魔法能力でもネイフェルに劣る。
そんな自らの弱点を機械を使い補う柔軟性があり、他の二国にも劣らない国家を形成したそうだ。
ウィンダミア連邦も名前こそリファインファンタジーにも登場していたものと同じだが、分裂したりくっついたり、滅んだり復活したり、紆余曲折を経て今の形になったとさ。
ネイフェルという背の小さい、ホビットの様なイメージの種族で主に構成されている。
鍛冶が得意というわけではなく、魔法技術に優れ、集団での魔法による砲撃の威力は圧倒的という話。
ちなみに皐月の種族であるフェイリスは自由気ままな性格で世界の何処にでもいる。
国家に拘りがないのかあまり一つ所に止まらないようだ。
戦時中といってもかなり形骸化していて、ここ数十年は小競り合い程度のものらしくそこそこ平和が守られた安定した治世となっているんだって。
レティが亜人について聞いてみると、おとぎ話に出てくるやつらの話か?っていう反応だった。
「そうか、あいつらはもうおらんのか。気の良いやつもおったんじゃがな。」
そう言うレティは寂しそうだった。
ゲームでは完全な悪役、敵役の亜人はそんなに悪いヤツばかりではないそうな。
そして、異世界転生ものの常識、冒険者ギルドはこの世界にも存在していた。
それぞれの国にギルドがあり、それぞれの国に属する様で有事の際には軍隊としても徴兵される。
教育機関があり、戦いの基礎や魔法の勉強、なんなら武器防具のレンタルまであるそうな。
やたらとそちらの方面に力が入っていると感じられる。
戦争が身近な世界ということだろうか。
レティ曰く、この世界にはゲームではあったレベルのような概念はないが訓練や戦闘経験を積むと強くなっていくらしい。
当然の様にも聞こえるが、戦う技術等は練度が必要。
しかし、それとは別に身体能力や魔力は段階的に上がっていくのを体感できるらしい。
筋肥大とかそういうものレベルのものではない。
そこはもとの世界と大きな違いだと言っていた。
「細マッチョがデカい両手持ちの大剣をブンブン振り回す様はヌシの世界観からするとさぞ異様に見えるじゃろうて。」
「ウチ、あんまりマッチョ好きじゃないんだよね。 」
娘の好みは聞いていない。
まぁムキムキマッチョが結婚の挨拶にきたらなんて言えばいいかわからんし。
君は娘と筋肉、どちらが大事かね?だとか、その筋肉で家族を守っていけるのかね?とか言ったらえぇんか?
皐月を元の世界に返すにも強くなってレティの魔力の量を大きくせねばならない。
日銭を稼ぐという事と強くなって皐月帰還の為の魔力の量を確保するという目的からギルドに所属するのが良いのではないかという話になった。
できれば危ない事は避けたいんだけど、レティの魔力確保の為に戦いは必要だ。
じゃあ俺とレティで冒険者を……と言うと皐月が仲間外れは嫌だと暴れだした。
放っておいたら何を仕出かすか解らず眼の届く所に置いておく方がまだマシという結論に達し、一度その冒険者になる為の教育機関とやらにお世話になる事にした。
そしてもう一つ。
ギルドに頼ること、冒険者となることには、大きな理由があった。
俺自身の身勝手な事情だ。
過去に大怪我をして格闘技の選手としての生命を絶たれた。
本当に世界の頂点まであと一歩だったんだ……
しかしハードな練習の毎日で身体の異変に気付くことが出来なかった。
その結果だった。
しかし、レティにより新しく作られた体には故障の痕はなく、むしろ以前より遥かに動きの良いものになっていた。
それは俺の中でとっくの昔に灰となり真っ白になっていた当時の気持ちを再燃させたのだった。
もう一度、最強を目指せる。
あの命を燃やして戦った青春時代を、取り戻せるかもしれない。
実のところ皐月が冒険者となる事を許可したのも、日銭を稼ぐ事も、二の次だと俺は正しく認識していた。
人の親として終わっていると言われても何も言い返せない。
最低だと思いながら、それでもという気持ちを押さえられなかった。
危険性を理解しているのかしていないのか、娘はこれから始まる冒険者としての生活に、無邪気に心を躍らせていた。
これで良かったのか、やっぱり冒険者なんて認めなければ良かったと……自分の中で答えの出ている自問自答を繰り返すかもしれない。
その度に自己嫌悪に陥りながら結局は自分自身を押し通すのだろう。
例え結果が最悪のものであっても突き進む。
後悔はその時にすればいい……
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