旅への準備

 闇が辺りを包む頃――彼らの中には、すでに迷いはなかった。

 ディリー、ガーフィール、そしてスゥエード。

 想いを重ね、覚悟を決めた三人は、その場で出発に向けた準備を始めていた。


「目的地は〈ヴェナヘル〉です」

 地図を広げながら、ガーフィールが静かに告げる。

 アスガルと唯一、貿易を行っている大陸。そして、天族が住み、ミドガルとも交流がある国だ。


「距離的にはそこまで遠くない……けれど、問題は場所です。トリメルのちょうど反対側。つまり、ミドガルのもう片方の最果てから、海を隔てた大陸」


 スゥエードが腕を組みながら地図を睨む。


「だが、俺の転移能力をうまく使えば、道のりを短縮できる。過去の任務であちこちの転移座標は記録済みだし、チェックポイントを挟めば体力も温存できるはずだ」


 転移能力――スゥエードの魔法剣による能力。距離には限界があるが、行軍速度としては驚異的だ。


「ミドガル東部……トリメルの隣の〈県の聖地〉、そして、そこから中央の〈王都〉、そして〈迷宮都市〉…最後に<風見の町>……そこを繋いでヴェナヘルを目指す」

「問題は物資と、魔力の管理だな」

「そのあたりは任せてください」

 スーさんが小さく笑って、封印を解いたバッグを広げる。中には、何の道具だか俺には分からない道具などが詰められていた。


 と、その時だった。


「……ねぇ、私も言って良いわよね」

 控えめな声が、背後から聞こえた。


 全員が振り返ると、そこにはエイトさんが立っていた。柔らかな赤い髪に、いつもと変わらぬ人懐こい笑み。だが、その瞳の奥に、はっきりとした意志が宿っている。

 俺はそんな彼女の顔に静かに驚いた。


「ふふ、意外そうな顔をしていますね。でも……エイトは、ああ見えて魔力量は非常に高いんです。しかも、身体能力も常人の枠にありません。私の、成功作、8号ですから」

「成功作って……」

 本当に、彼女は実験体なんだな、と強く思うと同時に、そういうスーさんの表情は誇らしそうだ。

 

「うん……ちょっと重たい岩とか、持てるくらいだけど……役に立てるなら行きたいのよ」


 その言葉に、しばしの沈黙が流れる。


 だが――


「なら決まりだ」

 スゥエードがバシンと手を打ち、にやりと笑う。

「戦力は多い方がいい。それに、お前さんが本気なら止める理由はねぇ。危険な旅になるが、それを承知で来るってんなら、歓迎するさ」


「ありがとう、スゥエードさん……!」


 エイトさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 その笑顔を見て、ディリーも自然と頬を緩める。


 ――こうして、四人の旅立ちが決まった。

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