第10話 見習い道士と外道士達

 受験者とも試験官とも、もちろん観客とも違う、明らかに異質な人達。

 たくさんのキョンシーが暴れているのに、逃げるどころかこの状況を楽しんでるみたい。

 そんな奴らを見ていると、ある言葉が頭をよぎった。


「なんなのアナタ達? まさか……」

「お前達……外道士か」


 私が思ったのと同じことを、ハオランも口にする。

 本来道士というのは習得した術を、世のために正しく使わなければいけない。

 だけどそんな道士の道を外れて、私利私欲のために術を使い、世の中を乱す者がいる。

 それが外道士。


 すると一団の中央にいた被り物をした人物が、頭巾を外した。


「外道士ねえ。アナタ達の言葉では、そうなるのでしょうね。けど心外ねえ。私達はただ、自分の心に素直に生きてるだけなのに」


 頭巾の中に収まっていた長い髪が、風に揺れる。

 その人は、女性だった。


 年齢は私より十くらい上の、妖しい雰囲気のお姉さん。

 美人だけど、どこかまがまがしくて嫌な雰囲気。

 すると、他の受験者も騒ぎ出す。


「外道士だと? 道士の風上にも置けない、下衆どもじゃないか!」

「あらあら、酷いこと言うわね。口の悪い子にはお仕置きが必要かしら……炎魔召来!」

「うわああああっ!?」


 外道士の女性の放った炎が、受験者の男性を襲う。

 炎に包まれてのたうち回り、私はそれを見て唖然としたけど、試験官が動いた。


「いかん! 水神!」


 水を呼んで、男性を助ける。

 さっきは助けるのは観客が優先って言ってたけど、そうも言ってられなかったみたい。

 おかげで男性の火は消えたけど、ためらいなくこんなことをするなんて。

 自分達が対峙している奴らが危険な人達だって改めて分かって、ゾクゾクしてくる。


 きっとそれは、他の受験者達も同じ。

 みんな言葉を失って、固まってるけど、試験官は違う。

 さすが、試験の監督を任せられるだけの道士。肝が座っているのか、毅然とした態度で外道士達を睨み付ける。


「外道士どもめ、いったい何が目的だ!?」

「決まってるでしょ。道暗ドウアン様の仇を討って、私達にとって住み良い国を作ることよ」

「ドウアンだと?」


 彼女達が話しているドウアンという名前には、聞き覚えがあった。

 たしか、お母さんから聞いたんだと思う。


 ドウアンは道士の中でも強力な力を持っていたけど外道に落ちて、仲間を引き連れて国家転覆を企てた危険人物だったとか。

 けどそれはもう、何十年も前の話。

 ドウアンは討たれたと聞かされていたのだけど……。


「我々はドウアン様の意思を継ぐ。道士、それに見習いども、共に来る気があるのなら、仲間に加えてやってもよいぞ」

「何をふざけたことを。拒んだ場合はどうなる?」

「無論、キョンシーに食われてもらう」


 外道士の女性が、ニタリと笑う。

 アイツら、きっと後々邪魔になる道士を始末しにきたんだ。


 今日ここにはたくさんの道士や道士見習いが集まっているけど、観客を守りながらあれだけ大量のキョンシーを相手するのは難しい。

 なんて卑怯な奴らなの!


 それにしても、一度にあんなにたくさんのキョンシーを操るなんて……あれ?


「これは……試験官さん、あのキョンシーたち、おかしいです!」

「そんなもの見ればわかる!」

「そうじゃなくて。キョンシーを操っているなら契約者の、生きた人間の気が感じられるはず。なのに暴れてるキョンシーからは、それが感じられません。感じる気が、まるで野良キョンシーみたいにです」

「なんだと?」


 試験官も、それに受験者たちもざわつきはじめる。

 外道士達がキョンシーを操っているなら、彼女達の気。つまり生きた人間の気が、キョンシーの中に流れ込んでないとおかしい。

 だけど暴れているキョンシー達には、それがない。

 死者の気しか感じられないの。

 だけど外道士の仕業なのは間違いないし、これってどういうこと?

 すると、外道士の女性が顔をしかめる。


「ちっ、鋭いお嬢さんだ。死ね!」


 彼女が投げたのは、先の鋭く尖ったクナイ。

 私に向かって、真っ直ぐ飛んできたけど……。


「せいっ!」

「ハオラン!」


 ハオランの手刀が、それを叩き落とす。

 さすが、頼りになる!

 外道士の女性は驚いた顔をしたけど、すぐにニヤリと笑った。


「へえ、やるじゃない。アンタ、キョンシーだね。その腕、私達のために振るってもらうよ──怨!」

「うあっ!?」


 女が印を結んだ瞬間、ハオランが苦しみだした。


「ハオラン! どうしたの!?」

「……シャオメイ様、俺から離れて」

「なに言ってるの。そんなことできるわけ……」


 言いかけて、ハッと気づいた。


 ハオランの中にあったお母さんの気が消えかけていて、代わりに別の気がハオランの中に入ってこようとしていることに。

 外道士の女性を見ると、印を結んで気を送っているのがわかる。


 そういえば、聞いたことがある。

 外法の中にはキョンシーの契約を無理矢理剥がして、代わりに別の人が強制的に契約を結ぶ術があるって。

 あの女、他のキョンシーみたいにハオランを操るつもり!?

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