第53話 涙の帰還

最初に公民館に現れたのは羽黒と一輝だった。


羽黒は普通だが、一輝は憔悴している。


「父さん、富谷どうした」


「悲しいことがあったんだよ」


それ以上は聞かないで上げてと、ウインクをして、良樹を連れ2階へと上がる。

そして一輝は一番にゆかりを抱きしめた。

兄妹のハグなど珍しくもないが、様子が違う。


「兄貴、どうしたの?ねえ兄貴ってば、黙ってばっかりじゃ分からないよ、どうしたの?」


「親父と、お袋が…ゾンビになってて……もうどうしようもなくてさ」


「せめて一息に殺そうと思ったのに、お袋、あいつさ、ゆかりは無事かとかお前は大丈夫かーとかさ聞いてくんだよ。親父はさ、生きろって…」


ふるふる震えながら、一輝の目からは涙が落ちてゆかりの肩を濡らす。

ゆかりも大きな目から涙を零しながら、「うん、うん…」と震えながら相槌を打つ。


「おれ…ころしちゃったんだ…ゾンビだったら…殺さなきゃって……覚悟してたけど…ほんとうは…いっしょにいたかったけど…そうしたら…お前1人に、なっちゃうもんな……」


「うん、そうだよ、兄貴まで、死んじゃったらさ、あたしひとりぼっちになっちゃうんだからね……帰ってきてくれて…ありがとう…」

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