第21話 未読の理由
一月八日、始業式の朝。
朱里は登校するために萌花との待ち合わせ場所へと向かいながら、途中で新と合流した。
「おはよ」
「はよ」
朝が弱い新はいつも寝坊したりして、後から走って来て合流するなんてこともよくあって。
今日みたいにシャキッとしてる新を見るのは久しぶりかも。
ネクタイもしっかり結ばれてるし、髪に寝ぐせもない。
それがちょっぴり新鮮に思えて、思わずクスっと笑みが零れた。
「何、笑ってんだよ」
「だって、新商品みたいな顔してるんだもん」
「は?」
新は朱里の言葉を脳内で反芻して最適化した答えを導き出す。
萌花との待ち合わせ場所へと歩きながら、ちょっと照れくさいような表情を浮かべ、視線を逸らせながらぼそっと呟く。
「俺、卒業後の進路、決めたからさ」
「え?」
「それもあって、だいぶ前から筋トレとかやってたんだけど、冬休みから本格的に早朝のジョギング始めたし、規則正しい生活みたいなものを心掛けてんだわ」
「どうしたの、新」
「だから、進路のためだって」
「……警察官になるの?」
「う~ん、ゆくゆくは? 先に大学と、その後に警察学校に行くけどな」
現役刑事をしている父親に憧れて、幼い頃から柔道をしてたけど。
お姉さんの雪ちゃんが防衛大に通っているのもあって、現実的に考え始めたのかもしれない。
「萌花は就職希望みたいなこと言ってたよ」
「ん、知ってる。まだ迷ってるみたいだけどな」
親友二人がどんどん大人になってゆく。
私はまだ漠然とした考えしかないから、取り残されていきそうだよ。
「朱里、新、おはよう」
「はよ」
「……おはよう、萌花」
「ん? どうしたの? 暗い顔だけど。もしかして、二人、喧嘩したの?」
「してねーよ」
「朱里、お腹痛い?」
「……何でもない」
「俺が進路決めたって言ったから、拗ねてんだよ」
「べっ、別に拗ねてないもん」
「そういう態度が拗ねてるっつーんだろ」
「ぅっ……」
「そっかそっか。でもさ、うちら高校三年になるしね。すぐに決断迫られるようになるよ」
分かってるよ、そんなこと。
のんびりしすぎてるのだって、自覚してる。
「そういえばさ、LIMEのグループチャット、既読が二つしかつかないんだけど、速水くん、どうしたんだろう?」
「あ、それ、あたしも思った。体調悪くて寝込んでるとかじゃないよね?」
「今日、始業式だし、学校来んだろ」
「……ん」
萌花の誕生日の日に四人で一日中遊んで、その後に数回LIMEでメッセージのやり取りをして、最後に彼から連絡があったのが元旦の日だ。
うちら三人は毎年恒例で近くの神社に初詣に行くから、彼も一緒にどうかと誘ったんだけど……。
「やっぱり、喪中だってことを忘れてたのが原因かな」
「……う~ん、それくらいじゃ気分害するような人じゃないと思うけど」
「俺もそう思う。単にスマホ壊れたとか、そういう類じゃね?」
「……だといいけど」
母親を亡くしたばかりの彼は、新年を迎えたからと言って、私たちと同じではない。
ついついしてしまう『あけおめ~』の新年挨拶もタブーだとネットに書いてあった。
そんな事すら知らなかった私は、家族を失った彼の心にちゃんと寄り添えてなかったのかもしれない。
グループチャットではなく、個人的に何通もメッセージを送ったけれど、未だに既読にすらなってなくて、彼がどうしているのか気になってしまう。
直接会って、ちゃんと謝りたいな。
**
「先生っ、速水くんは何でお休みなんですか? 病状が悪化したとかじゃないですよね?」
「ッ?! 佐倉、速水が病を患ってるのを知ってるのか?」
「あ、はい。速水くんから聞きました」
「……そうか」
朝のSHRが終わり、職員室へと戻る担任を階段の踊り場で呼び止めた朱里。
始業式だから登校して来ると思っていた速水くんが『欠席』だと告げられ、朱里は一抹の不安を覚えた。
「急に悪化したというわけではないんだが、今後のことも考えて検査入院をしてる」
「入院? 暫く入院するんですか?」
「それは分からない。一応、一週間の欠席届けは出されているとしか今は伝えられないな」
「……病院にお見舞いに行ってもいいですか?」
「見舞いは出来ないらしい」
「え?」
「難病指定の病棟らしく、感染症予防で面会謝絶らしい」
「……そんな」
「佐倉みたいな子がいて、先生嬉しいよ。本人の希望で病気のことを伏せて来たから、どうしても先生が介入するにも限界があるし。休みの間のノートくらいは取っておいてやってくれ」
「……はい」
「何か分かったら教えてやるから、とりあえず教室に戻りなさい」
「はい」
予鈴も鳴り終わっていて、一時間目の授業が始まろうとしているから、廊下や階段に人気は殆どない。
ひんやりとしたその空間に朱里の溜息が吸い込まれてゆく。
音信不通の原因が、検査入院だったなんて……。
電子機器がNGなのかもしれないし、もしかしたらスマホを見るのもできないくらい弱っているんじゃないかと、よからぬ想像が次々と湧き起こる。
「友達なんだから、一言くらい教えてくれてもよかったのに……」
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