仕置きへ。相手の強さはどの程度?

 広大なフィールド……そして、外部には被害が無いよう、ちゃんとした結界が張ってある……


 大丈夫かしら? 結界の強度……こっそり、最大威力の魔力を、結界に打ち込むと!


 ぱり~~~~~~~ん☆


 あ、簡単に砕けちゃった……強固なのかもだけど、アタシの出力には耐えれないのね。


 その光景に、周囲からも、歓声が上がる。

 すると、上空から、学園長様の声が!


『つ、つぐ様! ち、ちちぷい製と言えど! 幾多の神を討伐されている、貴女様たちの最大出力までは抑えれませんから! それは、ハンデにしていただきたい! 何卒!』


 となると、出力は半分くらいで良いでしょうね。


「……月美も、成長したなぁ?」


 隣で、得物である、大剣破壊する者を持ち、素振りをするラーヴィ。


「アンタは、あのリーダーをお願いね。ミントはあの巨漢かしら。斧が得物みたいだし、暴れておいで」


「「承知した」」


 二人の抑えは決まった。あとは……弓手か……手練れなのは分かる。


「まほはあの弓手をお願い。ヤマネはどうす……って、憑依済なのね♪」


 まほは、伝説の妖怪、九尾の狐である、ヤマネを憑依させ、戦闘モードの準備万全だった。


「……なるほど、彼らの実力は確かね。でも、神威で終わらせるのはなしなのよね?」


「瞬殺は意味無いのは、分かるでしょ? 邪神が関わっているし、学園長様のご厚意の為、盛り上げなきゃね♪」


 少し、面倒そうな表情のまほだけれど……意図は分かるでしょう?


 圧勝じゃ、ギャラリーが盛り上がらないのよ。


 にんまり笑いながら――


「それじゃ、私の相手はあの弓手ね……落ち着いた雰囲気、恐らく切れ者でしょう」


 ヤマネアイから見える世界から、相手を的確に観察をしている……


「任せる、まほ。後は、剣士と呪術師、そして金髪の男か……」


 すると、葵が……佐賀国の女王様から頂いた超古代遺物の宝剣。

 宇海神の牙と呼ばれる、長剣を手にしている……


 使用者のマナに応じて、刃の形を自在にできる、葵専用の得物。

 これを使いこなす為、剣の使い方は、ラーヴィから徹底的に訓練を受けている。


「ウチは、あの剣士抑える……」


 すごく短い言葉で、覚悟を伝えてくれる。


 ある方から、特訓を受けて以来、福岡国でも随一の剣の使い手になった葵。

 安心して任せられるわ。


「ぱっと見だけれど、葵なら大丈夫よ。しっかり、応戦してね」


「うん♪ アリガト、お姉ちゃん」


 そして、妹の椿咲は、アタシたちに呪術を掛けた、さえない呪術師を睨みながら…… 


「……それでは、わたくしはあの、呪術師を相手にします。タイマンでしたら、流石に遅れは取りませんわ」


 真剣な瞳……アタシたちにあの蟲による攻撃を下したのは彼だろう。

 闇術にも特化してる、椿咲になら、任せられるわ♪


「そうね。任せたわ! 椿咲」


 にっこり、満面の笑みで応えてくれる、妹。可愛い♡


「さて、残るは、アタシ、あのヒーラーを狙うわ。アイツが臭い……」


 戦闘向けではない、ヒーラーらしいけれど、邪神特有のマナを感じる。


 皆、頷く。まさか、ちちぷいでも、邪神が来るとはね?


 今回の事件の発端も、恐らく元凶は、あの邪神に関連するヒーラーでしょう。


 アタシが、アイツを抑える。


 やがて、準備はお互い整ったところで、再び上空からアナウンスが始まる。


『間もなく、福岡国対ドコサヘキサ界の、サバイバルバトルが行われます♪ 各々、お楽しみを♪』


 ははは、完全に、見世物になっちゃったわけだけど、ありがとう! 学園長様。


「そんじゃ、ケジメつけさせに行こうか! 皆!」


「「「「「応!」」」」」


 さて、戦闘開始のゴングは鳴った。各々、作戦通りの動きで行動を始めた。


□ ■ □ ■


「さぁ〜! まだ間に合うよ! オレの予想はだよー!」


「ん? 即席の的屋で予想してんのか? お嬢ちゃん?」


 パンクスタイルの紫髪に、アイシャドウで整えられたきれいな瞳。

 ラフなシャツにデニムのホットパンツを着こなし、少し危険な香りを漂わせる美女が、ハリセンを台に叩きつけながら元気に声を上げていた。


「お嬢ちゃん、キレイじゃねぇか? ところで、予想って当てられるのか?」


 突発的に始まった予想屋の彼女の周りに、野次馬のように男たちが詰め寄る。


(っし! つかみはオーライ! あとはふんだくれりゃ! トンずらだ♪)


「こちとら色んな修羅場をくぐってんだ。それに、福岡国の面は、分かるからな」


 どうやら、分かり切った実力を元に、お金をだまし取るつもりらしい……


(よほどのことなけりゃ、月美達負けねえだろうし、ここは稼げるチャンスだ!)


 すると──


「あ〜! ケイお姉ちゃん〜♪ まただましてお金儲けするの〜?」


 顔見知りなのだろうか。青い髪のおかっぱがかわいらしい少女が、ケイと呼んだ女性を指さして声をかけてきた。


「げ! や、やよい! ちょ、ちょ〜っと待ってな! お客さんたち!」


 あわてて、ケイはやよいと呼んだ少女の方へ駆け寄ると、小声で懇願する。


「やよい〜、勘弁してくれ。ここで稼いで、オレは豪遊したいんだぜ?」


 悪びれる様子はない。ただ、やましい事を口止めしたいだけのようだ。


 すると、にっこり笑顔でやよいが提案してくる。


「なら、ボクがお腹いっぱいになるくらい、ごはん食べさせてくれたら♪ だまっておくよ♪」


「げ! そ、それは……」


 ケイは考え込んだ。やよいがとんでもない量を食べることを、知り合いだからこそよく知っているのだろう。


 予想屋として相手にしようとしていた客たちが、訝しげにケイを見下ろす……


「「「だまそうとしたのかい? お嬢ちゃん?」」」


 ケイは冷や汗が止まらない。やよいはにこにこしながら、「ごはんは?」とねだってくる……


「あ! 魔王女様の月美が!」


 ケイはとっさに闘技場の方を指さして、大声を出す。

 全員、一斉に「え! 月美ちゃんが!」と視線を向けるが──そんなことはまったくなかった……


「おい! お嬢ちゃん! 何も起きてな……ああ!」


 闘技場に気を取られた客が再びケイの方を見るが……


「……やられた! くそ〜!」


 古典的な方法で逃がしてしまったことを、その場の男たちは悔しがった。


「ん〜、ケイお姉ちゃん、逃げちゃった……やっぱ、アニキにご飯食べさせてもらお♪」


 やよいもその場から姿を消す……


 残されたのは、だまされかけながらも難を逃れた、欲にまみれた男たちだけだった。


□ ■ □ ■


「手筈通りいくぞ! ミコスは影に隠れて、相手の弱体化に専念! バルサは遮蔽物を利用して、俺ら前衛を援護だ! あのパーティーに泡を吹かせてやるぞ!」


 先手必勝! あんなひょろひょろな連中、相手じゃねぇ。


 瞬殺して──や……! ああっ!


 い、いつの間にか……! あの銀髪野郎が、目の前にいやがる!

 全く気づけなかった……な、何だ!?


「どうも、初めまして。アンタは僕が相手しよう」


 ……な、何だこの覇気は! た、単なるガキじゃねぇ! コイツ……!


 それに──剣聖ヤーンには、青髪の娘が、見たこともないほど美しい剣を手にして対峙している。

 帝王ていおうクンには、緑髪の娘が、クンの斧と互角のサイズの大斧を、軽々と片手で構えている。


「剣士のアンタはウチが相手する」


「そちらのオジサマは私ね。異論はないかしら?」


 タイマンに持ち込むつもりか! 上等だ! だがな──!


(やれ! バルサ! 剥き出しのこいつらを射貫け!)


 俺のわずかな合図で、神業の狙撃が三人を狙って飛来する……が!


 パパパァーン!

 空中で三本の矢が爆ぜた! 何が起きた!?


 いや、落ち着け……! ミコス! 影から援護だ! ミコス!?


 すると──地面から、俺の影を通じて、とても美しい美少女が現れる……怖ぇ。


「あら〜ら♡ あの影に潜っている呪術師さん♪ わたくしがお相手しますわね♡」


 ズルリ……美少女は影へと沈んでいく……!

 敵にも影に潜れる奴がいたのか……それに美少女! 許せん!


 そして……こいつら、本当に舐めてやがるなぁ?

 俺は怒りをぶつけるように、眼前のスケコマシ野郎に言い放つ。


「ところでよ? 全員水着って、どういう了見だ! ああ!」


 こちとらしっかり防具で致命傷を避ける装備をしているのに……


 相手は、さっきまで遊んでいた水着姿のままだ……どうかしてやがる!


 青髪の娘も、緑髪の娘も……目のやり場に困るじゃねぇか!


「ん? 着替えが面倒だからな?」


 は……?


 舐めすぎだこいつら! 戦場をなんだと思ってやがる!


「……うぇ、何考えてるか分かる」


「……キモ。さっさと片付けましょうか」


 青髪と緑髪の女ぁ! ……クソ! これだから女は……! 上等だ!


 バルサは──ダメだ!

 隠れているはずの遮蔽物に、いつの間にか凄まじい矢が突き刺さってやがる!

 あれじゃ援護は無理か! 完全にタイマンの構図だな……ちっ!


「娘、後悔するなよ? 此度の我が剣──『ライオンブレード』は血に飢えておる!」


 ヤーン! 頼むぞ! そんなガキンチョに負けんなよ!


「……娘よ、我が前に出たこと、懺悔するなら今のうちだ!」


 クン! そっちも頼んだ! その緑髪の姉ちゃんはできるだろうが、問題ないよな!?


 さて、俺は……目の前の、この得体の知れないクソガキに集中する。


「覚悟しやがれ! ハーレム野郎! 秒で終わらせてやる!」


 けしからんこいつらに──俺たちの恨みを、叩きつけてやる!

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