抜け駆けイクナイ! ペナルティとホルターネック

 ……これは、間違いない。

 つぐちゃん、抜け駆けしたでしょ?


 朝から——いや、会った瞬間から、わかったの。

 ラーヴィの匂い……そして彼の霊力が、月美ちゃんの体内にしっかり残ってる。


 それに——

 あの、幸せオーラよ……明らかにのオーラを発してる……!

 うっふふ♪ これは面白くなりそう♪


「……やられたわね」


 ミントも、すぐに察したようで肩をすくめる気配を感じます。


「お姉ちゃん……ずるい……一人だけ先に……ぷぅ」


「お姉様ったら……ぷぅ!」


 あおい椿つばも頬を膨らませるみたいね。

 さらに、じと目で月美の方を見ている気配……


「アハ……アハハ、ごめん☆」


 一応は反省してる風だけど——

 きっと、幸せが駄々洩れていて全然隠しきれてない。

 むしろ、《いい夢見ました♡》って感じね。


「それじゃ、お姉ちゃん、このバカンス中は我慢だね! 順番、ちゃんと決めよっか!」


 葵がバチっと宣言。葵は正義感強いから……これは想定内。


「そうね。見事に抜け駆けされたことだし、月美はしばらく無し、で」


 ミントもスッと同意する。


 月美ちゃんが、先走ったのはともあれ……


 ……まあ、私にもそのうち順番は回ってくるだろうし。ふふ♡

 楽しみはあとに取っておくのも悪くない。


* * * *


 朝7時。

 福岡国・貸切フロアの待合室に、私たちは朝食のために集合していました。


 ……けれど、肝心の彼——ラーヴィの姿が見当たらない。


 しばらくして、ようやく扉が開く音がして——


「……遅れてすまない、みん……な?」


 ……ぷっ!

 皆、瞬時に彼へ視線を集中させてる気配がすごく伝わります。

 その空気の圧、すごいですよ?


 特に、葵・椿咲・ミントの三人からは、全盲の私にでも見えてしまいそうな、あきらかにビームが出てます。


「ラーヴィ……あなたって、ほんと甘いんだから」

「ラーヴィ様。今度は、わたくしにもきちんとしてくださいませね?」

にぃに……ウチもよ?」


 ラーヴィは小さくため息をついて、どこか申し訳なさそうな気を放つ。

 少しお疲れにも見えますが……まぁ、相手が月美ちゃんですしね。

 を相手にするのなら、普通の男性なら……たぶん命が持ちません。


 彼女の求愛は、それだけ激しい。


「す、すまん、ラーヴィ。やっぱバレちゃった……てへ☆」


「……いや、大丈夫だよ。突然のことだったとはいえ、受け入れたのは僕だから」


 ——そう。

 そもそも、うら若き5人の乙女を相手にしている時点で、もう有罪ギルティなのでは?


 ……でも、仕方のないことなのです。


 私たちは、


 血の縁よりも、深く。


 だからこそ、彼は、誰かひとりを選ぶことができない。

 誰かを選べば、他の4人は……彼と距離をとらねばならない。

 それは、彼との繋がりもだけれど……お互いの繋がりにも、影響があるだろうと……


 誰も傷つけないように。誰も否定しないように。


 それで、彼は皆と付き合うことを決めた。


 ……反吐が出るくらい、ほんと、ズルくて馬鹿甘い方。

 でも——


 そんな彼を、


 独占したい、独り占めしたい!


 でも! 月美ちゃんや椿咲、葵、ミント……


 皆も、大事にしたい……


 だから私も、馬鹿なんでしょう。同じ穴の狢だわ。


 けれど、この想いは……本気です。


「まぁまぁ、今に始まったことじゃありませんし。そろそろご飯に行きましょうか?」


 私はそう提案しました。

 お腹もすいてきたし、この場を早く収めて、さっさと行動しなければ。

 皆との……大切な時間が減ってしまう……そんなの、もったいないですから。


「……そうね、ホント、ごめんね、みんな」


 こうして一応の収束をみせ、

 私たちは朝食をとるべく、食事街へと向かったのでした。


* * * *


「今日はちちぷいビーチで海水浴だね♪ そういえば、海って戦い以外で入ったこと、ないや」


 朝食を取りながら、葵が話題を振ってくる。

 言われてみれば、海に潜るのは私も初めてで、とっても楽しみ♪

(もぐもぐもぐもぐ! このという食べ物! ハンバーグがジューシーで、肉厚で弾力があり……噛めば噛むほど、肉汁がじゅわ〜っと広がって……お、美味しい♡)


「うちの世界じゃ、海の中は害魔獣だらけやけんねぇ〜。アタシも百道浜の砂浜で、『きれいやね~♪』って眺めるくらいしかしてないや」


 みんな、海で遊ぶのはほぼ初体験みたい。


 それだけに、どんな体験になるのか……ますます期待が膨らむわ♪

(もぐもぐもぐもぐもぐ! ごくり……それに、お野菜のレタスやトマトも瑞々しいけど——このパインアップルって果物! シャキッとした歯ごたえに、甘さと酸味が絶妙! ハンバーグとの相性も抜群! そしてこのソース……すべてを計算した上での完璧な配合! 正直屈します!)


 ごちそうさまぁ! ん? なに? ラーヴィ……なにか言いたげですね?


「……幻刃? 考え事しながら、同時に食レポしてるのはどうかと思うが?」


 あら♪ 彼にはバレてしまいましたか

 だって、美味しすぎるんですもの♪ ごくり。


「あら? 美味しい料理への感想を述べるのは、食べる者としてのたしなみですよ?」


「……いや、少なくとも僕は、幻刃にしかそういうこと言わないけどね……」


 あら♡ ふふ♪ それは光栄なことですね♪

 彼から唯一私にしか言えない言葉があるだけでも、心が焦れます♡


 周囲から僅かに聞こえる『まだたべるのかぁ!』の声もありますけれど。


 キニシナイ! 私は、私。


 さて、次のお皿は……おや、これもまた丼もの?


※幻刃は成人男性10人分相当のロコモコ丼を完食しました


「ラーヴィ、こちらの丼はなんて名前?」


「ああ、それはタコライス丼らしいよ。とりあえず


「タコ……初めて耳にしますが、いただきますね♪」


 はむ……んんっ! こ、これは……!

 ひき肉がスパイシーで、もにょもにょっ……くぅぅっ! 新しい味覚の波状攻撃!


「幻刃、朝からすごい食べるわね♪ 私も負けずにしっかり食べよっと♪」


「(はむっ……ごくり)ふふ♪ そうですよ、ミント♪ 朝もたっぷり食べてこそ、健康の秘訣ですよ♡」


「見慣れていても、その量はやはりとてつもありませんわよ?」


 椿咲があきれてるようだけど♪ ふふ♪ 今日も糧に感謝です。


* * * *


 午前8時ちょうど。

 朝食を終えた私たちは、水着に着替えるために一旦それぞれの部屋へ戻っていた。


 さて、みんなはどんな水着を選んでくるのかしら……ふふ♪

 私が選んだのは、黒いホルターネックタイプのワンピース……と呼ばれるデザインの水着らしいです。


 もちろん、私は全盲ですから、自分では見た目がよく分かりません。


 ……でも、ちょっとだけ。

 《ヤマネアイ》で確認してみましょうか?

 こんなことに使うのは……どうなのかしら。でも、えいっ!


 ……ほほぅ。なかなか大胆ですね。

 背中、かなり大胆に開いていません? これ。


 でも、着方は……ふむふむ。

 ストラップを首の後ろで結んで——

 背中から足を通して、腰まで引き上げて……こうかしら?


 それから、胸元をしっかり覆って、ストラップを固定……

 うん、ちゃんと着られたと思います。


 《ヤマネアイ》で最終チェック♪ ……よし、見た目も問題なさそう♪


 すると——部屋のドアをノックする音が。


「まほ〜♪ 水着、ちゃんと着られました?」


 椿咲の声。うふふ、もちろんですわ♪

 いつも自分で服を着ているのですもの。水着くらい、朝飯前です♪


「ありがとう、椿咲♪ ちゃんと着れたわ。そっちに行くね♪」


 私は水着の上に軽く羽織れるカーディガンを手に取り、

 みんなが待っている場所へと足を進めた。

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