私を避暑地へ連れてって♡ 一万五千年後の福岡は案外平和だけど、酷暑で大変です

オサケドス☆

一万五千年後の福岡も酷暑で大変

避暑地リゾート地への魅惑な招待状

 ここは、西暦二千五百年からさらに一万五千年後の未来の地球——


 この地球には「福岡ふくおか国」という国があり、魔王によって統治されていました。


 その国には、進化を遂げた新たな人類をはじめ、魔物、精霊、神々、妖怪などが共に暮らし、それぞれの個性を尊重しながら、平和に共存していたのです。


 福岡国歴二百二十五年、7月30日・木曜日——。


 今年の夏は、夏の精霊が大はしゃぎしており、連日のように酷暑が続いていました。


 街を行き交う人々は「暑かねぇ〜」が口ぐせとなり、日々の口伝トレンドでは、『暑い』が一位の座を独占。


 熱中症への注意喚起が、毎日のように放送されていました。


 一万五千年後とはいえ、人類はかつて滅びた過去があるため、現代の文明の利器は“超古代の遺物”とされ、そのほとんどは機能せず、すでに使い物にならない状態となっていました。


 しかしクーラーなどの冷房機器は、使える程度にはできていました。

 が、命に関わるほど暑さに弱い水棲族や特定の種族など、ごく限られた者にしか使用が許されていませんでした。


 超古代では『電気』と呼ばれていた原動力の代わりに、この時代では『マナ』と呼ばれる力が用いられていましたが、それも無尽蔵ではなく、蓄積できる設備も未だ整備途上でした。


 結果として、マナの使用は厳しく制限されることとなりました。


 それは、この国を治める国王・魔王が住む「魔王城」も例外ではなかったのです。


 お城に仕える者たちは皆、暑さ寒さにめっぽう強く、国王である魔王・アウディ・ヴィデバラン・夢崎ゆめざきは、こう命じました。


「必要な国民のもとへ、優先的にマナを届けてほしい。城の空調は病棟施設に限定し、その他の場所では使用を控えるよう指示をしてくれ」


 国民思いの魔王様は、自らの居城でも必要最低限のマナ消費に徹していたのです。


* * * *


 そんな福岡国には、「第一魔王女様」こと、夢崎ゆめざきつぐ様と呼ばれる、御年十九歳のとても美しい女子大生がいました。


 ストレートで艶やかな、とても長い黒髪。

 すれ違う者を一瞬で虜にする、美しさを極めた顔立ち。

 情熱を映したような赤い瞳に、ふっくらとした艶やかな唇——

 その唇がわずかに揺れるたび、誰もが目を奪われるほどの色香を放ちます。


 Iカップはあるだろうという豊満な胸。

 『キュッ』と引き締まった……とまではいかない、ややゆるめのお腹と腰回り。

 そして『ボン』と張り出した魅力的なお尻。


 超古代の言葉で表現するなら、『ダイナマイトボディ』と称される、とても官能的でグラマラスなスタイルの持ち主でした。


 そんな絶世の美魔王女様は——

 夏休みの真っただ中、自室のベッドで暑さとの戦いに敗れかけていたのです……


□ ■ □ ■


「あ〜〜〜〜〜づ〜〜〜〜〜〜いぃ〜〜〜〜〜〜〜!!」


 あづいっ、もうムリッ! アタシのこの美ボディが……溶けちゃうってば〜っ!


 今年の夏は、夏の精霊がハイテンションすぎるんだもん……ほんと、やってらんない!


 アタシは、すっかりぬるくなっちゃったベッドの氷嚢敷きパッドを替える気力もなく、

 じっとり汗をかきながら、だら〜っと体を溶かしていた。


 氷魔法で氷嚢をキンキンにすればいいんだけど……

 何度もやってると、もう面倒くさくなっちゃって……ああん、もうッ!


 夏休みなんだから、パァ〜っと遊びたいのに……

 こんなに暑すぎたら、遊ぶ気なんて1ミリも湧いてこないじゃん……


 でも、どこか避暑地にでも行きたいなぁ〜……ん?


 ドアの方から、コツン……とノックの音。誰か来た?


「は〜〜〜い、どちら様〜〜?」


 アタシはのそっと体を起こして、ドアの方へと向かう。

 今の格好は、赤いノースリーブキャミソールにショートパンツ。


 まぁ、自室に来るのは顔なじみくらいだし、これくらいラフでも問題なかろ。


 声をかけると、ドアの向こうから聞き慣れた声が返ってきた。


「お姉ちゃん、今いい?」


 ……あ♪ この声、あおいや〜ん♡ アタシの癒しっ!


「は〜いは〜い♪ 今、開けるわよ〜ん♡」


 アタシがドアを開けると、そこには――

 にっこり笑顔の葵が立っていた。……かわいいっ♡


 腰まで伸びた、まるで水が流れるような青髪。

 前髪はセンター分けで、つるんとした可愛いおでこがのぞいてる。キスしたい♡


 アクアマリンみたいに澄んだ青い瞳に、くるんとしたキュートな睫毛。

 お鼻と唇もあどけなくて、もう全身がかわいいの塊すぎる〜〜〜♡


 最近は体も鍛えてるからか、キュッと引き締まったボディラインで、

 このお城の兵士でも敵わないくらいの実力者!


 っていうか、強さランクで言ったらまでいっちゃってる、超実力者。


 名前は、おう豊湖でこあおい。今年で16歳になる、超とんでもJK♪


 そして、アタシのかわいい妹♪


 血は繋がってないけど、『真姉妹の儀』を交わしてるから、正式に家族として、この城で一緒に暮らしてるんだ〜♡


「いらっしゃ〜い、葵〜♪ どうしたのぉ?」


 さっきまでの暑さもどこへやら。

 大好きな葵の登場に、アタシは満面の笑みで迎える。


 ……けど、あれ? 葵はちょっと驚いた顔してる? どうしたんかな?


「お、お姉ちゃん、汗すごっ! 大丈夫? ちゃんと水分とってる?」


 うぅ、たしかに汗だくではある。

 葵も少し汗ばんでるけど、訓練着を着てるし……この暑さの中、訓練してたのか〜。えらいなぁ。


「ん〜、へーきへーき♪ たぶん今朝から3リットルは飲んでるかも?」


「ん〜、水だけじゃだめよ? ちゃんと塩分もとらなきゃっ」


 さすがしっかり者の葵。かわいくて優しくて、もう完璧なんだから♡

 はっと、葵は表情を変える。目的を言うはずが、アタシの汗に引っ張られちゃったからかな?


「そそっ! ねぇねぇ、お姉ちゃん♪ あのね、招待状が来たのっ!」


 すると、葵の手には——一通の招待状があった。


 はて? 怪しいやつじゃ……ないよね? うん、たぶん大丈夫。


 差し出された封筒を受け取って、差出人を確認してみる。……んん? これは……?


「あら、懐かしい! 学園長様からの招待状!? え、これ、どこにっ?」


 そう――過去にアタシたちは、『ちちぷい学園』っていう異世界の学校に、イベントのとき遊びに行ったことがあるのよね〜。


 あのときのご縁もあって、その後もちょくちょく、イベントのたびに呼んでもらったりしてたけど……

 今回はなんと、直々に招待状を送ってくれたなんてっ♪ やっぱり粋なお方だわぁ〜♡


「えっとね、にぃにとミント、それからまほと一緒に訓練してた帰りに、みんなもらったの♪ 今渡したのは、お姉ちゃんのぶんだよ〜♪」


 あらあら、みんな個別にちゃんと届いてるのね〜。学園長、芸が細かいっ!


 ん〜っと、どれどれ……?


 □拝啓!

 □福岡国魔王女様であられる夢崎月美様。

 □単刀直入にお誘いしてもよろしいでしょうか。

 □是非とも、私が経営しております南国のリゾート避暑地

 □へ、ご招待したく申し上げます。

 □皆様のご参加、心よりお待ちしております。

 □楽しんで欲しい! 以上!


 な、なんとぉ〜〜〜!? この粋な招待文! 学園長様ったら♪

 そして、避暑地へのご招待!? きたこれッ!!!


 もう、願ったりかなったりじゃないのぉ〜〜〜っ!!

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