祓い屋
吉乃華音
第一部 黎明
第1話 スカウト
大阪府、堺市。
そこにとある施設が存在する。
薄暗い廊下。
静かな息遣い。
重い鉄の扉。
法律に背き、捕らえられた者が入る場所____そう、刑務所。
そこを、一人の少年が刑務官に連れられて歩いていた。
おそらくどれだけ弱小なプロダクションでも、所属していたら確実に大手事務所になるであろうほどのルックス。
東京ドームを埋め尽くせる人気アイドルでさえも顔負けの顔のよさ。
そしてどれほどのモデルでさえ実現することは不可能であるスタイル。
それだけ良いルックスをしているのにも関わらず、どうして彼はこのような場所にいるのか。
当たり前のことであるが、彼は窃盗や万引きを繰り返して犯罪を犯している。
彼は児童保護施設に入っていて、そこで他人の貴重品、施設の貴重な資料といったものを勝手に取ったり盗んだりしたのだ。
とまぁそんな風だから職員とは確実に仲が悪いし、そうやっているせいなのか友人を作ろうともしなかった。
だから彼に面会者がいることは、天地がランバダを踊っているのかと疑わなければならない。
もちろん、彼自身も不審に思っていたから、断ったのだが、「上からの命令だ」と言うよくわからない返答が返ってくる。
そう言う訳で、彼は面会室の前にやって来た。
キィィィと扉が開くと同時に、外からの光が差し込んで来た。
そして彼が入室し、初めに見たのは___
自分とそこまで変わらない年の、何かしらの組織の制服に身をまとった少女。
「こんにちは。御門澪君…であってるかな?」
「え、あ…はい………」
これが彼の名前である。
「私は一条神詩奈。公安対霊部部長です。」
この少女は、どの様に形容すれば良いのか分からないほどに美しい容貌をしている。
神のかかった美しさ、というのがピッタリのような、もしかしたらそれ以上に美しい可能性がある。
加えて、日本人離れした容姿だ。
銀髪碧眼。身長はおそらく165cmはある。
しかし、澪にとってそんなことはどうでもよかった。
____公安?対霊部?なんだよそれ?
思考を読んだのだろうか、一条が話す。
「君からしたら私は変な人にしか見えてないよね。
私は悪霊を祓う除霊師なの。ちなみに平安時代では陰陽師って呼ばれてた。
そしてその除霊師が集まった組織が対霊部。
今日私は君のトクベツな能力に興味を持ってね。まぁ有り体に言うとスカウト…かなぁ」
ごめん、丁寧に説明してくれても、俺の頭は余計情報過多でパンクだよ。
とか思いながら、御門は一条に聞いた。
「あのさ、俺そんなトクベツな何かなんて知らねぇんだけど。」
というかそもそも平安時代の陰陽師は天文学に基づいた暦作りなどが仕事だったはずだ。
少なくとも御門の頭にはそうやって記録されていた。
彼女の言うことを信じるのならば、陰陽師はそういった呪術的なことを行っていたことになる。
教科書にさえ載っていない、隠された事実。
「そりゃ君のは使用するタイミングが大分特殊だから。」
「特殊?」
トクベツな能力を持つ人がいる組織の中でも変なの持ってるってこと?
それなら自分、マジで天才じゃね?
なんて考えていると、一条がしばらく考えてから口を開いた。
「そもそも私達日本人は悪霊が視えてて当たり前。だから教科書に載っていない。………載せなくとも皆知ってるからね。」
___普通逆じゃん。てかなんで俺等知ってねぇの?皆知らないし、ニュースで報道されたこともねぇし………
一条は続ける。
「なのに近年日本人は視認できてない。それの原因を探したんだよね。じゃあとんでもないことに今年中に日本三大怨霊の封印が解けるって分かった。その影響で日本が終わっちゃう。
でもね、アメリカ軍に頼ることもできないの。」
解けると困ることは1つ。
日本は人がいない人外魔境へと化する。
ついでに言うと、悪霊が見える外国人は少ない。
日本にいるアメリカ軍に頼ろうにも頼れない。
そもそも日米安全保障条約は悪霊対応は含んでいない。
「………悪霊を知っているのが日本人しかいないから。だからアメリカ軍に頼ろうにも、何言ってるで笑われる。」
そして俺のトクベツなのは、その怨霊と対峙する時にしか使えない………らしい。
今は、まだ完全に顕現していないだけで、顕現すればかなり強力な力になるらしい。
「だからこそなんだけど、私達は国家公務員として働くことになってる。」
日本人しか知らないなら、知っている日本人で対抗すれば良い。
江戸時代は民間の除霊師も存在したらしい。
が、明治維新以降、除霊師は日本帝国軍の入隊を義務付けられた。
「民間だと、ちゃんとした福利厚生ができなかったらしくてね。………ついでに言うと、戦闘力もあるから戦争に駆り出されたりもしてたから…。」
安定した生活を送る代わりに、綱渡りのような仕事をし、国家の安全を守る。
「太平洋戦争が終結してから、日本帝国軍は解体された。だから除霊師の専門の部隊を作ることになったの。」
警察の管轄として管理すれば、日本国憲法にも抵触しない。
そもそも除霊師の存在は国家の安全を守るためにある。
だからこそ、政界でも政党が対立することなく、安全に存在していた。
そこから年月が過ぎ、現代。
「悪霊が見える人が少なくなってきているから、私達の存在自体に反対する人も多くなってきてる。
視えないものを祓ってるって言われたって、実感がないからね。」
霊験を信じない人は一定数いるし、というかそんなことを言われたって、で済ます人しかいない。
そんな人達はどう言うか。
「「こんなやつらのために税金払いたくない」」
というのが大きい。
「まぁ話が大分脱線したけど、君が協力してくれないと日本が終わる。
だから、君に提案があるの。」
「何?」
「君の罪をなかったことにする。
その代わり、私達に協力して。」
罪を無かったことにする。
その代わり、自分は公安に入って怨霊を祓う。
「もちろんこれは口約束じゃない。〝誓約〟だからね。」
「誓約?」
いきなり知らん単語出すんじゃねぇよ。
とか思って聞いてみたら、「絶対に守らないと死ぬ約束。」と淡々と返事が返ってくる。
あぁ、それ自分も破ったら死ぬやつだ。
とは言えこんな薄暗い場所で何年と過ごしたくはない。
それに加えて自分は今まで誰かに感謝されたことはない。
願っていることと行動は矛盾しているのを自覚しているが、実は自分がヒーローのように、感謝されることを願っていた。
「いーじゃん、やってやんよ。」
俺が自信満々に返事をすると、一条は微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ、あとはこっちで処理しておくね。………あぁ、あと、君はこれから公安附属の高校に入学してもらうからね。
安心して、私と同じ学年だから、知らない人しかいないなんてことはないよ。」
え、お前、俺と同い年だったの?
それで公安のお偉いさん?
何者?
そんな俺の質問を答えるにはないのだろう。
さっさと立ち去っていった。
_______________________
よろしくお願いします。
現役高校生です。
設定など、甘い部分がございますが、ご了承くださいませ。
また、誤字脱字ございましたらコメント等で報告していただけますと幸いです。
高校生ですので定期考査、学校行事などで定期投稿は困難です。
そのため不定期投稿となりますが、ご了承ください。
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